6IXTYNIN9 シックスティナイン

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1999年,タイ,115分
監督:ペンエーグ・ラッタナルアーン
脚本:ペンエーグ・ラッタナルアーン
撮影:チャンキット・チャムニヴィカイポーン
出演:ラリータ・パンヨーパート、ブラック・ポムトーン、タサナーワライ・オンアーティットティシャイ

 不況で人員削減を余儀なくされた会社、くじ引きで解雇者を選んだ結果くじに当たって首になってしまったトゥムは沈んだ顔で家に帰る。その夜、さまざまな洗剤をがぶ飲みし、拳銃で頭を打ち抜くという夢を見、次の日には万引きまでしてしまう。そんなトゥムの家の前に100万バーツがおかれたダンボールが置かれていた…
 タイでヒットし“タイのタランティーノ”と称された若手監督ラッタナルアーンのスタイリッシュなアクション作品。いわゆるタイ映画から創造するものとはかけ離れた洗練された作風が新鮮。欧米でもヒットするのに十分なでき。

 冒頭のくじ引きのシーンの妙な緊張感。確かに本人たちにとっては一大事だろうけれど、はたから見ればただのくじ引き、それをスローモーションを織り交ぜ、音声にも細工をして、ジョン・ウーばりの(?)アクションシーンにしてしまうあたり、冒頭からセンスを感じさせる。この部分は一種のパロディという感じで笑いを誘う場面だけれど、スローモーションや静寂(音を極端に小さくする)は映画の中でたびたび使われる。このあたりは最近の日本のアクション映画(たとえば三池崇史)とも近しいものを感じさせる。
 展開としては古典的というか、ある種の悪運からどんどん引き返せないところに入り込んでいってしまうというものではあるけれど、わかりやすい伏線というか、あからさまに思わせぶりなシーンやカットやものが出てくるところがなかなかうまい。たとえば、ムエタイではないほうのボスの顔がランプシェードで隠されていたり、箱をあけるときに包丁を使ったり、特に必要なさそうな小便のカットを使ったり、「それがあとでなんかかかわってくるんだろうな」とわかるように使う。この方法は意外性は少ないけれど、複雑なストーリーを展開させるときには有効な手段となる。そのあたりが洗練されている部分だと思います。
 ほかにも細かくしゃれたシーンが結構あり、細部まで楽しめるし、気を使って作っているという気がします。ちょっと全体的にできすぎている気はしますが、完全に作り話だという意識で見れば、すべてのシーンや話がパズルのピースのようにぴたりとはまって気持ちいい。ある意味偶然を積極的に取り入れて、話を盛り上げて行こうという方法なわけですが、これはタランティーノなど映画をひとつのファンタジーというか夢物語ととらえる作家に近しいものを感じさせます。

 ろうそくに拳銃。ろうそくに拳銃が近寄り引き金を引くとライター。そんななんだか古臭いねたも、その拳銃が後で使われることで、ひとつの複線になる。見ている人にはその突きつけられている拳銃がライターであることがわかっているということ。しかし突きつけられているほうにはわからない。この仕掛けがこの映画に典型的な作り方である。
 あとは、主人公の心理の動きも物語の展開とあわせてうまくいじられている感じ。ラストの終わりかたも悪くない。ハリウッド映画の単純さとはちょっとちがう味のある終わり方。主人公を中心とした関係性の展開も紋切り型の仲間/敵、善/悪、などの二分法からちょっとずらした展開の仕方がなかなかうまい。
 ついでに、あまりわからないタイの事情のようなものをなんとなくわかってくる。ムエタイが盛んなのはわかっているけれど、それが暴力団と結びついているというのもいわれてみればそうだろうという感じ。そしてタイ人がビザを取りにくいというのも言われてみればわかる。日本なんかは到底無理なんだろうと思う。
 そのような事情がわかるように、つまり世界を意識して作られているのかどうかはわかりませんが、うまく作られていることは確か。もっとヒットしてもよかったんじゃないでしょうか。

怪盗ブラック★タイガー

Fa Talai Jone
2000年,タイ,114分
監督:ウィシット・サーサナティヤン
脚本:ウィシット・サーサナティヤン
撮影:ナタウット・キッティクン
音楽:アマンボン・メタクナウット
出演:チャッタイ・ガムーサン、ステラ・マールギー、スパコン・ギッスワーン、エーラワット・ルワンウット

 ダムはファーイに率いられた盗賊団で銃の名手として「ブラック・タイガー」と呼ばれていた。今日も同じくファーイの手下のマヘスワンと裏切り者の家を訪ね、皆殺しにした。一方、沼の中のあずまやに一人やってきた女性。彼女はダムの写真を持ち、一人待つ。仕事を終え、あずまやへと向かったダムだったが、ついたとき、そこにもう女性の姿はなかった。
 ごく彩色の不思議な色彩の映像に、古風なメロドラマ、西部劇、コメディといったさまざまな要素を詰め込んだタイ流エンターテインメント。作られた安っぽさが笑いを誘う。

 こういう映画は嫌いではない、というよりむしろ好きなんですが、この映画の場合、安っぽく作ることの意味を履き違えているというか、中途半端というか、笑えるところはあるけれど、全体としてはしまりがないというか、そんな気がしてしまいます。
 最初から、色みがおかしくて、なんだか昔のパートカラーの映画のようで、それは面白いんだけれど、それで全部を通すわけではなく、風景が多いところや、加工しやすいところにだけ、そういった風合いを出してしまっている。これは安いのではなく、安易。安い映画を作るのは非常に大変なもの。それもお金をかけて安い映画を作るのではなくて、本当に安い映画を作るのはさらに大変。そのあたりの努力が足りないことがこの色の使い方からも見えてしまう。
 この映画を見ていると、「もっとこうしたら」とか「こうなったら面白いのに」ということが結構ある。たとえば、オレンジ色のごく彩色の知事の家がありますが、最初3回くらい映るまではこの家を正面からしか捉えない。それを見たときに「これはきっと張りぼてだ」と思ったんですが、結局全体があって、ちゃんと映る。多分これは張りぼてだったほうが面白かったと思う。全体を写すのは正面だけで、部分部分は別に作る。そのほうが、非常に変な感じになって面白かったんじゃないかな。と思う。そんな場面が結構あります。
 あと、問題は主プロットのメロドラマがあまりにお粗末。恋愛ではなくて、ダムの人生というか、日常のほうが主プロットで恋愛はサブプロットだったなら、メロドラマのお粗末さ、ありきたりさも目立たなかったろうけれど、ここまで前面に押し出されてしまうとつらい。何せスリルがほとんどない。まあ、古典的メロドラマを使って、全体の時代性を統一しようという意図はわかるけれど、終盤はちょっと退屈してしまう。

 というように、全体としてみると、どうしてもあらが目立つというか、気になるところが多く見られますが、やはり面白いところも結構ある。カウボーイ風の強盗団がいること自体すごいけれど、彼らが馬で走るとき必ず掛かる音楽が一緒。この音楽はなかなか面白い。あとは、ダムがゴンだったか誰だったかの三人組とやりあう二つのシーンはいいですね。「血ぃ出すぎだよ!」とか「弁当箱忘れてるよ!」とか、突っ込みどころ盛りだくさんなので、一人で見るよりは、友達とがやがや見たいところ。
 そのあたりはなんだか「シベ超」的なところもありますが、ちょっとふざけすぎ。ふざけるならもっと真面目にふざけてよ。

アタック・ナンバーハーフ

Satree Lex
2000年,タイ,104分
監督:ヨンユット・トンコントーン
脚本:ビスッティチャイ・ブンヤカランジャナ、ジラ・マリゴール、ヨンユット・トンコントーン
撮影:ジラ・マリゴール
音楽:ワイルド・アット・ハート
出演:チャイチャーン・ニムプーンサワット、サハーバーブ・ウィーラカーミン、ゴッゴーン・ベンジャーティグーン

 またもバレーボールチームの選考におちてしまったオカマのモン。実力は十分なのにオカマであるがゆえにはずされてしまう。悔しさを抱えながらモンは親友のジュンとバンコクに行くことにした。しかし出発直前、県選抜チームが選手を募集しているというので行ってみると、そこにはオナベの監督が。見事選考に通ったジュンとモンだったが彼らが入ったことで選手たちは辞めてしまい、ジュンとモンは昔の仲間に頼みに行くことにする。
 1996年、タイで実際にあったオカマのバレーボールチームを映画いたコメディ。スタンスとしては「クール・ランニング」ですね。かなり笑える。問題もちゃんと捕まえている。B級テイストも盛り込まれ、「これは見なきゃ!」といえる作品。

 ちょっと物語の進行がまどろっこしい感がある前半がなければ素晴らしかった。前半の何が悪いのかというと、いまひとつ的が絞りきれていないところ。観客としては彼ら(オカマたち)をどう見ていいのかちょっとわからない。主人公なのだから、そこの肩入れしてみるのが普通なのだけれど、この映画のつくりとしては、彼らは反感をもたれる存在として描かれている。それはおそらくオカマに反感を持つ観衆を想定しての描き方なのだろう。
 だから、最初から彼らに肩入れしてみると、彼らへの反感を取り除いていく過程の部分がまどろっこしい。それを回避するためには登場人物の一人を反感をもつ人間の代表としていれて、その登場人物が彼らにシンパシーを感じていくという過程を描くのが最もらくな方法で、この映画ではチャイがその役回りとして使われているのだと思うけれど、彼は最初からオカマをそれほど毛嫌いしていないので、いまひとつね。
 というところが少々難点ですが、そんな過程を越えて、サトリーレックを応援するところまで行ってしまえば、ただただ笑うだけです。偏見を持つ人のほうを逆に笑い飛ばすという方法も非常に効果的です。そして最後の最後に来て映画の面白さは一気に加速。映画の最後の15分くらいからエンドクレジットまではひと時も目が離せない。謎のB級特撮あり、エピローグも、エンドロールも最高です。