現金に手を出すな
Touchez pas au Grisbi
1954年,フランス=イタリア,96分
監督:ジャック・ベッケル
原作:アルベール・シナモン
脚本:ジャック・ベッケル、モーリス・グリフ、アルベール・シナモン
撮影:ピエール・モンタゼル
音楽:ジャン・ウィエネル
出演:ジャン・ギャバン、ルネ・ダリー、ジャンヌ・モロー、リノ・ヴェンチュラ
老境に差し掛かったギャングのマックスは空港で奪われた5000万円の金塊の記事を食い入るように見る。友人のリトンと愛人たちとなじみのレストランで食事をし、その愛人たちがステージに立つキャバレーに向かう。そこにはアンジェロという別のギャングが来ており、マックスはアンジェロとリトンの愛人ジョジーが一緒に部屋にいるところに出くわす。そこから物語りは意外な展開に…
ジャック・ベッケルの傑作サスペンス、単なるギャング映画ではなく、老境に差し掛かったギャングの心を映し出す味わい深い一作。
表面上は老境に差し掛かったジャン・ギャバン演じるマックスとまだ若いリノ・ヴェンチュラ演じるアンジェロとの抗争を描いたギャングものにありがちな話だが、それはあくまで物語として必要だっただけで、本当に描きたかったのはマックスの心だろう。
ジャック・ベッケルはフィルム・ノワールに類するハードボイルドな映画を撮っているようでいて、実は非常に精神的な映画を撮っている。それが一番現れているのは、マックスとリトンのふたりが隠れ家で夜を過ごす場面、ふたりのいい年をした男が並んでワインを飲んでラスクを食べ、パジャマに着替えて、歯を磨き、寝る。プロットからするとここはリトンの精神的なゆれとかそういったものを描く場面ということになるのだが、それにしては長い。この場面からわかるのはふたりが年齢を気にしているということだ。明確に「引退」という言葉がセリフに出てくるということもあるし、皺について話したりする。
また、その翌日には同じ部屋でマックスのモノローグ(というよりは心の声が声として描かれるシーン)がある。このあたりもなんだかくよくよしている感じがして、単純に犯罪映画という感じはしない。初老の男がそろそろ引退しようと考えていて、そのけじめをつけようとするけれど、まだまだ老いちゃいないという気持ちと、それとは裏腹に年齢を感じさせる現実がある。その初老の男がたまたまギャングだったというだけの話なのかもしれない。
この犯罪映画というよりは老人映画という感じが私には非常に面白かったわけですが、犯罪映画としてももちろん一流品なわけで、一つ一つのシーンの面白さは50年たっても色あせることはない。主に映画の後半の話になるので、少しネタばれ気味になりますが、たとえばマルコが見張りの男が電話をかけに行く隙をついて… のシーン、このリズムがいい。電話を使おうとしてふさがっていたり、「何か起こるのか?」という緊迫感を保ちながらリズムよく展開していく。
50年という時間は長いようで短いような、さまざまな仕掛けは今では通じなくなっているものもあるが(エレベータが上から透けて見えたり)、いまだに面白く見られるというのはやはりすごい。ジャン・ギャバンもなくなってすでに25年、この映画の時点で50歳、それでもなんだか色気を感じさせる。まだまだ若いジャンヌ・モローもいて、物語に限らず見所盛りだくさんという映画になっていますね。