KAFKA/迷宮の悪夢
Kafka
1991年,アメリカ,99分
監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:レム・ドブス
撮影:ウォルト・ロイド
音楽:クリフ・マルティネス
出演:ジェレミー・アイアンズ、テレサ・ラッセル、アレック・ギネス、イアン・ホルム
何者かにおわれる男。男は甲高い笑い声を上げる異様な男に殺されてしまう。その男エドゥアルドは保険局に勤めるカフカの同僚で友人だった。役所に姿を見せないエドゥアルドを心配に思ったカフカは彼の友人に尋ねたり、彼の家に行ってみたりするのだが、彼の行方はつかめない。そんな時、カフカは警察に連れて行かれる。そこにはエドゥアルドの死体があった。
フランツ・カフカを彼自らの作品世界に入り込ませるような形でフィクション化した作品。カフカの作品世界や実人生のエッセンスがそこここにちりばめられているが、まったく実人生とは関係ないサスペンス映画。
全体のイメージは明らかにカフカの『城』をモチーフにしているのだが、必ずしもカフカの物語世界を映画として表現しようとしたわけではない。この映画にはカフカの作品が落ち込むような迷宮は存在していない。あるいは存在しないものとされている。ソダーバーグはカフカを利用してどのようなメッセージを伝えようとしているのだろうか? 明らかにソダーバーグはカフカが好きだろう。それはカフカの作品やカフカの人生に関するエピソードがそこここにちりばめられていることからもわかるし、ムルナウ博士がカフカに「君こそが新しい時代だ」みたいなことを言ったところなんかで示唆されているように見える。
しかし、ソダーバーグとしてはかなりの苦悩があったように見受けられるのも確かだ。この映画は決してカフカ的世界を描いてはいない。カフカ的世界の象徴的な存在である「城」が登場しはするが、それはカフカ的な意味での「城」では決してない。すべての悪夢の源泉であり、しかし決して近づくことが出来ないようなものとしての城ではない。
そこがこの映画の微妙なところで、「城」をどのように解釈するのかということが問題になる。端的に言ってしまえば、カフカの夢なのか、それとも現実なのか? ということ。つまり「城」は悪夢の源泉であるのか、それとも悪夢そのものなのか? ということ。それを解く鍵は白黒とカラーという対比にあるのだろうと思うが、夢と現実、果たしてどちらがカラーなのか? と考えると、それは必ずしも説く必要のない問いであるように思われてくる。