コンドルの血
Sangre de Condor
1969年,ボリビア,82分
監督:ホルヘ・サンヒネス
脚本:ホルヘ・サンヒネス、オスカル・ソリア
撮影:アントニオ・エギノ
出演:ウカマウ集団、ボリビアの農民たち
3人の子供を亡くし、それ以後子供も生れなくなってしまったアンデス地方の先住民の村長のイグナシオは、多くの子供が死に、多くの村の女に子供が出来なくなってしまった自体を危ぶみ、周りの村にも調査をする。そこで浮き上がってきたのは、すべての不幸は北米人の診療所ができて以降に起こってきたということだった。
ボリビアにやってきた北米の「平和部隊」と呼ばれる人々が秘密裏に行っていた不妊手術を告発するウカマウの長編第2作。いたって素朴な映画だが、先住民の共同体の内部が描かれていて非常に興味深い。物語の構成も時間軸に沿っていくのではなく、複雑に入り組み、物事の全貌を明らかにしていく上で非常に巧妙に練られたものであるといえよう。
まず、イデオロギー的にこれが反米帝国主義映画であることは間違いない。我々がこの映画によって知ることになったこのような事実はもちろん重要なことだが、それだけでは今の我々がこの映画を見る十分な理由にはならないだろう。
この映画はウカマウの映画の中でもかなりドラマトゥルギーがしっかりとした映画だ。主人公であるイグナシオが撃たれてしまう事件を発端に、それまでの事件の推移と撃たれて以後のイグナシオに起きる事件を平行させて描く。その2つの出来事の推移によって語られることは同じことであり、それはもちろん権力とその奥に潜むアメリカ帝国主義の不正の告発である。
そしてなによりも、最後にイグナシオの弟パラシオス(村を出て都市化したインディオ、つまり旧来の伝統的文化・共同体的価値観から切り離されて生きているインディオ)が共同体に戻ってたち上がる。このエピソードこそがウカマウが映画を作った動機であり、それはつまり、この映画を見た都市にすむ先住民たちに、「君たちも共同体に帰ってたち上がるんだ!」というメッセージを送っているのだ。
このメッセージの受け手ではない我々は、この映画がこれだけ力強くメッセージを伝えていることに驚嘆する。そして物語にひき込まれ、そのメッセージに共感している自分を見つめて納得する。映画にはこれだけの力があるんだと。
映画の持つ「力」、それは『第一の敵』を見た時にも感じたものだが、この映画のほうがより直接的に人々を動員しうる「力」に溢れている。そのような「力」を映画から感じることが出来る。それだけでもこの映画を見る価値があると思う。