1963年,日本,94分
監督:増村保造
原作:佐賀潜
脚本:石松愛弘
撮影:中川芳久
音楽:池野成
出演:宇津井健、叶順子、神山繁、殿山泰司、小沢栄太郎

 社長が自宅で殺されるという殺人事件。この担当になった城戸検事は凶器も判明し、指紋も出て、簡単な事件だと考えた。思い通り簡単に容疑者を捕まえ、尋問を開始するがなかなか自白をしない。そしてそこに現れたのは腕利きとして知られる弁護士山室だった。
 「黒」シリーズ、宇津井健シリーズの最初の作品。増村得意の法廷もので、重厚なドラマ。

 被疑者がいて、いかにも悪徳っぽい弁護士がいてという設定で、どう考えても城戸検事に肩入れせざるを得ない設定の作り方なので、このドラマはとてもいい。映画に対してはなれた視線で見ると、こういうドラマチックなドラマは醒めてしまうし、特に斬新なものがあるわけでもないので耐えがたくなってしまうが、映画の中に簡単に入り込めると、眉間にしわを寄せながら次の展開へと心はあせる。 ということなので、映画の冷静な分析など望むべくもなく、叶順子はきれいだなとか、宇津井健は眉毛つながって見えるなとか、そんな感想しかなく、これが最初からシリーズ化される予定だったとしたならば、「これからどうなるんだ城戸検事」と思わせる終わり方は見事だなということぐらいしか言いようがない。
 ひとつ思ったのは、殿山泰司のすごさ。最近「三文役者」という映画をやっていて、殿山泰司を竹中直人が演じていました。すっかり見逃してしまいましたが、もともと殿山泰司は知っていたもののそれほど思い入れがなかったというのもあります。しかし、この作品の殿山泰司はすごい。映画の中でひとり浮くぐらい味がある。水をいっぱい飲むだけで、「何かある」と思わせる演技をしています。これが名脇役といわれる所以かとはじめて実感したわけです。ほかに増村に出ていたので思い出すのは、「清作の妻」くらいでしょうか。とにかく、ようやく殿山泰司再発見でした。

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