女の不思議な魅力が“愛”について考えさせるブラジル映画の佳作
Eu Tu Eles
2000年,ブラジル,102分
監督:アンドルーチャ・ワディントン
脚本:エレナ・ソアレス
撮影:ブルノ・シウヴェイラ
音楽:ジルベルト・ジル
出演:ヘジーナ・カセー、リマ・ドゥアルチ、ステニオ・ガルシア、ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス、ニウダ・スペンサー
ブラジルの農村地帯、ダルレーニは花嫁衣裳を着て村を出るが、数年後小さな息子を連れて帰ってくる。ちょうどその日、祖母をなくしたダルレーニは声をかけてきた中年男オジアスと結婚することに。彼は新居を建てたばかりだったが、ダルレーニに働かせてラジオを聴いてばかりいた…
ブラジルの田舎を舞台におおらかにたくましく生きる女を描いたドラマ。
ひとりの女が息子を連れて田舎に帰ってくる。そこで新居を建てたばかりという中年男と結婚する。しかし男は働きもせず、その女ダルレーニがサトウキビの収穫の仕事をし、料理をし、水汲みをし、洗濯をする。そして親切な男と浮気をし、子供が生まれる。それでも生活に変化はないが、今度は男の従兄弟が家を追い出され転がり込んでくる。その従兄弟ゼジーニョはダルレーニに親切で今度はそのゼジーニョの子供が生まれる。そしてさらに…
というなんだかニンフのような話だが、実のところこのダルレーニは美人というわけではなく、自分自身が働いているわけだから何人もの男を作って悠々と生きているというわけでもない。彼女はおそらくただ純粋にそれぞれの男を愛している。だから自ら働き、子供を生み、子供を育てる。男たちは自分が裏切られていると知っていてもダルレーニから離れることができない。それはダルレーニの魅力によるものだが、それ必ずしも彼女の女としての魅力だけではなく、彼女の人間としての魅力や彼女が注いでくれる愛に引き寄せられてしまうのだ。
変な話ではあるけれど、ひとつの愛の形を示していることは確かだ。一夫一妻制という道徳によって成立した愛の形とは異なるある意味では始原的な愛、それを素直に表現しているのがダルレーニなのかもしれない。人は愛する相手を独占したいものだけれど、複数の相手から愛されたいというわがまま欲望も持っている。そして複数の相手を同時に愛することも場合によってはできる。
こんなどろどろとした話では普通なら嫉妬が渦巻き、「こいついやな奴だなぁ」なんて思う人物が登場してくるものだけれど、この映画にはそれがない。誰もが少しずつ我慢しながらある程度自分の欲望を満たし、自分なりの妥協点を見出している。
このような関係が理想的ということは絶対無いけれど、なんだかちょっと魅力的ではある。人間と人間の関係というのは本当に不思議なものだ。
結局のところいったい何が言いたいのかということはこの映画からは見えてこないけれど、それでいいのだろう。人間のありようには本当にさまざまな形があるものだ。
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