バナナ園で現場監督をするベトとそこで働きながら歌手を夢見る弟のタト、草サッカーでゴールキーパーとストライカーとして活躍する二人はたまたま近くで自動車がパンクして試合を見に来たスカウトのバトゥータの目に留まる。PK対決で勝ったほうがプロチームに紹介されることになり、ベトはタトに右に蹴るように言うが…
メキシコ出身の3人の監督が設立した製作会社の第1回作品。ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナが『天国の口、終りの楽園。』以来久しぶりの共演。

 田舎者で脳天気な兄弟がうっかりサッカーのスターになってしまうというメキシカン・ドリーム映画。田舎者がいきなりスターになってしまったときによくハマる罠にはまってドタバタと事件が起きるコメディ・ドラマ。

この映画は青春映画であり、家族映画であり、スポーツ映画であり、コメディ映画である。メキシコの映画なだけに“家族”という要素はかなり強調されていて、母親への愛情とチームへの愛情をパラレルに考えてみたり、兄弟の関係をスポーツと戦争に例えてみたり、家族から人生や社会を考えるというと大げさだけれど、家族、特に母親というのが人生に影響を与えるメキシコらしい映画だと思う。だからかメキシコではかなりヒットしたらしい。

日本ではあまり話題にも登らなかった気がするが、だからといってこのドラマがメキシコだけに通用するものだというわけではない。家族もサッカーも成功も世界中度の国にもあるものだし、人生に影響をあたえるものだ。ただ日本で見るとラテンの陽気な兄弟がバカをやってるっていうことのほうが印象が強くなって、あまり人生とか家族とかを考えさせられるものにはなっていない。

でもまあ面白くはあり、ガエル・ガルシア・ベルナルのバカな弟役があまりにハマっているので、結構入り込んでみることが出来る。これはガエル・ガルシア・ベルナルがいい役者だということ(ディエゴ・ルナももちろんいい役者だけど)なんだろうけれど、あまりにはまりすぎていて本当にバカなんじゃないかと思ってしまう。それに彼は徹底的にシリアスな役というのは似合わない。まあそういう顔なのかもしれないけれど。

そして、そのバカの背後にはいろいろな伏線があり、メキシコという国の状況をうかがい知ることができる様々なエピソードがあり、興味や共感を持ってこの陽気な作品を楽しむことができる。そして、この陽気さと裏腹に物語としては決してハッピーではないというのもメキシコらしさだと感じられる。そこがハリウッド映画とはちょっと違っていていいなぁと思ったりした。

この映画の監督カルロス・キュアロンはハリウッドでも活躍するメキシコ人監督アルフォンソ・キュアロンの弟で、この映画の製作会社はそのアルフォンソ・キュアロンがアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロと立ち上げたチャチャチャ・フィルムズ。この作品しか今のところ製作していないが、今後メキシコの若手監督を育成したりということを考えているのだろうか?そうだとしたらそれは楽しみだ。

せっかく1作目が成功したのに2作目がでないというのには何か理由があるのかもしれないが、メキシコ人監督はいい作品をとって注目されるとハリウッドに引きぬかれて「なんだかなー」という作品を撮ることがよくある。そうではないメキシコらしいメキシコ映画がもっと日本にも来てくれればいいなぁということを思わせてくれる気持ちいい作品だった。

2008年,メキシコ,101分
監督: カルロス・キュアロン
脚本: カルロス・キュアロン
撮影: アダム・キンメル
出演: アドリアーナ・パス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ギレルモ・フランセーヤ、ディエゴ・ルナ、ドロレス・エレディア

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