劇団でいご座の座長仲田幸子は芸歴65年を迎える今も沖縄のオバアたちを笑わせる喜劇の女王。その芸歴は戦争直後に遡る。その戦争体験や戦後の貧しい生活、芝居への想いを自ら語る。そしていま劇団で一緒に舞台に立つ孫の仲田まさえも「おばあちゃん」への思いを語る。
沖縄では知らない人はいないけれど本土ではほとんど知る人がいない演劇人仲田幸子を追ったドキュメンタリー。映画としての作りはイマイチだが、サチコーは面白い。
この映画の主人公は仲田幸子(サチコー)。最初は彼女のこれまでの人生を彼女自身の言葉も交えながら追い(必ずしも時系列通りではないが)、同時に今の彼女の舞台を映し、サチコーとはどのような人物なのかを明らかにしていく。
しかし、そこに突然、孫の仲田まさえの語りが入ってくる。彼女は東京で歌を歌ったりもするが基本的にはサチコーの劇団でいご座の女優であり、「おばあちゃん」と過ごす日々を楽しんでいる。それはいいのだけれど、突然語り手が変わるというがちょっと困惑させるものがあり、映画の焦点がどこにあるのかわからなくなってしまうところもある。
この映画は他にも、砂浜に打ち寄せる波のアップを背景にセクションのタイトルが表示されたりという素人臭さがあったり、全体的に映像の作りに統一感がないという感じもあって、どうも映画としてのまとまりには欠ける。未熟なドキュメンタリー映画監督が作ったというよりは、地方のローカル局が作った短い番組をつなげたような感じだ。
オバアに人気のサチコーだけに、観客もオジイやオバアが多いだろうし、それでこのまとまりのない映画で話がわかるのだろうか?と要らぬ心配をしてしまうが、オバアたちが目当てにしているのはサチコーであり映画そのものではないらしく、サチコーの芝居の場面では周囲から笑い声が聞こえてきたのでまあそれでいいのかもしれない。
そのサチコーの芝居はといえば、原始的というか素朴というか、おかしなメイクをして男役を演じてみたり、変な動きをしてみたり、古典的なギャグのオンパレードだ。それはたしかに面白い。でもやはり言葉はウチナーグチで字幕は出るものの細かなニュアンスはわからない。やはりその言葉を理解できればまた面白さは変わってくるのだろう。
そして、仲田幸子が座長としてすごいなと思ったのは、彼女自身がその言葉の問題を理解しており、その日の観客を見て演目を変えてしまうということろだ。映画の中では客に若者が多いと見るや、「あれは駄目だ言葉がわからない」といってわかりやすい演目に変える。芝居に没頭するのではなく、自分自身の芝居を客観的にも見ることができるというのがすごいなぁと感心したわけだ。
なので、言葉はちょっとわからないがその凄さは伝わってくるし、映画の作りはちょっと拙いが、サチコーの貫禄がそれをカバーする。地方の芸能というのはやはりその地方らしい素晴らしさがあって、それを知ることは一つの喜びになる。沖縄のオバアのようにワハハと笑えないけれど、観てよかったと感じられる作品ではあった。
2010年,日本,90分
監督: 出馬康成
撮影: 出馬康成
音楽: あこ、仲田まさえ、平良大
出演: ゴリ、仲田まさえ、仲田和子、仲田幸子、仲田明美、仲田龍太郎、名嘉睦稔、宮本亜門
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