妊娠九ヶ月の光子は親にはサンフランシスコに住んでいると嘘をつき日本で暮らしていたが、お金も底をつきアパートを引き払うことに。家も何もなくなった光子は子供時代の数年を過ごしたオンボロ長屋の大家を頼りそこに転がり込む。そして、何でも勝手に引き受ける光子は幼なじみの陽一の食堂の手伝いも始めるが…
『川の底からこんにちは』の石井裕也が仲里依紗を主演に作った人情コメディ。

 「OK、大丈夫、私が何とかする!」

というのが口癖の光子は全てを「粋か、粋じゃないか」で判断するという豪傑。それを仲里依紗が見事にというか、上手く演じているのがこの映画のすごくいいところ。ちょっと行き過ぎの感はあるけれど、この豪放磊落な光子には誰もが好感をもつのではないだろうか。

周囲はそんな光子に押されっぱなしという感じで、振り回されるばかりだけれど、それも全て光子が相手のことを思ってやっていることというわけなので、ありがた迷惑な面もありつつ受け入れるしかない。

そんな映画の全体を見てみると、この監督は「どん底での明るさ」とでもいう物を徹底的に追求しているような気がする。2009年の『川の底からこんにちは』で満島ひかりが演じたヒロインにもこの作品のヒロインと共通するものを感じる。この間に『君と歩こう』と『あぜ道のダンディ』という2作品を撮っているが、これも似た傾向の作品なのだろうか?と思う。未見なので、この監督について書くことは控えるけれど、2作品に限って見る限り共通するのはメインストリームではない、行ってしまえば“下層”の人たちならではの明るさや面白さというものではないかと思う。

この作品について言えば、とにかく強引に楽観的に進めていくところに何か安心してしまう感じがある。「そんなこたぁねーよ」と突っ込みたくなる気持ちも持ち続けざるをえないのだが、それでもそれを押し切るだけのパワーがこの映画と主人公にはある。

本当にこの映画の様な状況にいたら「OK、大丈夫」などといえる人はなかなかいない。でもそれを言ってしまうところに爽快感というか、安心感と言うか、溜飲が下がる気がするのだろう。

別に日本の状況がどうこうという気はないけれど、閉塞感を感じている所でこういう映画を観るとやはり元気づけられるし、ちょっとは閉塞感を弱めることが出来る気がする。他愛もない作品ではあるけれど、実は求められている作品なんじゃないかなどと思ったりもした。

2011年,日本,109分
監督: 石井裕也
脚本: 石井裕也
撮影: 沖村志宏
音楽: 渡邊崇
出演: 並樹史朗、中村蒼、仲里依紗、石橋凌、稲川実代子、竹内都子

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