中学生のハツキは母親のアキとその恋人のヤグと暮らしているが、自称ミュージシャンのヤグは「世界ツアー」のため2年前から世界を放浪している。そのヤグが突然帰ってきてハツキは嬉しい半面、仕事もせずにぶらぶらするうざいヤグに反感も覚える。そして、そんなハツキの気持ちを理解せずヤグのことを羨ましがる親友のトモちゃんとも喧嘩してしまい…
吉川トリコの同名コミックの映画化。ヤグを演じる大泉洋のウザさとアホさ加減が絶妙のコメディ・ドラマ。
オーストラリアから「グッモー・エビアン」とだけ書いた謎の絵葉書を送ってくるような男ヤグ、そのヤグが帰国して恋人のアキとその娘ハツキと再び暮らし始める。アキとヤグは同じパンクバンドの元メンバーでヤグは未だにミュージシャンの夢を捨てられないでいる。何をやってもダメなヤグは定職にもつかず、アルバイトもサボりがち、得意なのは“ヤグ・カレー”と名付けたカレーを始めとする料理だけ。そして底抜けのアホでうざいヤグに年頃のハツキはイライラし、親友とのこと、中学卒業後の進路のことなどもあって、アキやヤグにいらいらをぶつけてしまう。
というこの映画でまず目を引くのは大泉洋演じるヤグ。大泉洋はアホでうざい男をやらせたら天下一品、この役は大泉洋のための役なのではないかというくらいピッタリの役柄。ハツキを演じた三吉彩花も目立ちすぎずいい演技を見せている。麻生久美子からバカになりきれていない空気を感じてしまったのはこれまで演じてきた役柄のせいか。まあそれでも3人のバランスはよく気持よく映画の世界に入っていけるキャスティングだ。
ストーリーの方は大したものではないので、見所はといえばその大泉洋演じるヤグのハチャメチャな振る舞いが生み出す笑いに尽きるのかもしれないが、ヤグの過去など人物像の掘り下げも巧みで、最後にはしっかり感動させるオチも用意されているので、「笑って泣ける」映画として完成されているということができるだろう。
ストーリーもそうだが映画として全体的に一本筋が通っているというか、シンプルに一つの軸にそって全てが展開しているという印象を与えているのが非常にうまい。その典型的な要素の一つがヤグやアキがすべてを「ROCKかどうか」で判断するというところだろう。全てが「ROCKかどうか」で判断されることで、観客はある種の安心感を感じて、安心して笑い、安心して泣ける。そしてさらは、この「ROCK」というものがいったいどんなものか決してはっきりしてはいないというところがミソで、そのつかみどころの無さがハツキのイライラに通じ、物語を面白くしていくのだ。
と、私は思うけれど、この映画をまったく面白くないと思う人も結構いるのではないかと思う。それは何よりこの「ROCK」の曖昧さによるものだろう。このそもそも曖昧なものにぶら下がっている不安定さ、それを無意識に受け入れることができなければこの作品世界に腰を下ろすことはできないし、それができなければ楽しめない。この映画はある意味では「それを受け入れてくれるであろう人達」を前提に作られた映画であり、すべての人に向けられた映画ではないのかもしれない。
それはそれでいいと思うのだが、手放しで褒められない部分もあるなということで、気楽に観た方がいい映画かなと。
DATA
2012年,日本,106分
監督: 山本透
原作: 吉川トリコ
脚本: 山本透、鈴木謙一
撮影: 小松高志
音楽: 葉山たけし
出演: 三吉彩花、土屋アンナ、塚地武雅、大泉洋、小池栄子、能年玲奈、麻生久美子
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