友だちのいない少年がクリスマスプレゼントにクマのぬいぐるみをもらい、少年の願いが通じてそのぬいぐるみがしゃべるようになる。一般的なファンタジーならその少年はそのことを隠し、自分だけの友だちとして過ごしそうなものだが、この映画ではそのことは公表され、ぬいぐるみのテッドは人気を博しセレブになってします。そしてそれから20年後…

クマのぬいぐるみがマリファナをやり、シモネタを連発するという設定でもう笑える。セス・マクファーレンはこの作品が初監督作品だというのだからかなりの曲者だ。コメディというのはなんといっても意外性とかギャップというものが重要で、この作品はアイデアひとつでその重要なポイントを簡単にクリアしてしまう。

あとは、バカバカしいコメディに、主人公のジョン・ベネットの成長物語というスパイスを効かせれば出来上がり。大人になれない男というのもこういうコメディ映画では鉄板の主人公だ。

というわけで、面白いコメディ映画の要素がしっかり揃い、テッドのキャラクター造形もすごくうまく出来ているので、素直に楽しめるコメディになっている。そして、テッドのくたびれ具合が非常に綿密に作りこまれていたり、笑わせてくれるパロディがあったりもするので、「あー面白かった」と素直に思える作品だ。

難を言うなら、見る前に「こんな映画だろう」と想像したその想像を超えることが全くと言っていいほどないことだろうか。それなりに面白いからいいといえばいいのだけれど、大爆笑するには想像を上回る何かが欲しかったと思う。

ただひとつ想像を超えたのは、字幕だ。この映画に登場するようなパロディは日本人にはわかりづらいところがある。それをこの作品では、町山智浩を字幕監修に起用することで、大胆な字幕を使ってパロディのわからなさを何とか解消しようとしている。日本的な解釈でくまモンやらなにやらが出てくるのは賛否両論あるだろうけれど、まあこれはこれでひとつのやり方かなという気はした。

そして、この字幕は昨今の映画のあり方というのを端的に表しているような気もする。日本の字幕文化というのはそもそも独特なもので、ほとんどの国では外国語の映画は吹き替えで楽しむものだ。日本でなぜ字幕が普及したのかはよくわからないけれど、オリジナルの役者の声が聞きたいというのが大きかったのではないかと思う。しかし、それも最近は変わってきて、多くの作品で吹き替えも同時に公開されるようになってきている。

その理由の一つとして考えられるのが「わかりやすさ」の文化だ。いつの頃からか、さまざまな場面で「わかりやすさ」というものが重要視されるようになってきてて、映画にもその影響が及び、字幕よりわかりやすい吹き替えを好む人が増えてきているように思える。私はそれはそれでいいと思う。なぜなら、吹き替えと字幕とは洋画の2つの別の楽しみ方だと思うからだ。吹き替えのほうが画面に集中できるから3D作品やアクション映画、屈託ないコメディ映画などは吹き替えのほうが映画に集中できる。それに対して、登場人物の語り口や「間」が重要になってくるドラマでは、字幕ならではの面白さというものもある。

で、この映画だが、この映画は登場人物も早口だし、いろいろなギャグも挟まれるので、スピード感から言うと吹き替えのほうが適している作品だ。それを、字幕に工夫することで「字幕でも楽しめる作品」にしようとしている。そしてそれはある程度成功している。映画にかぎらず「翻訳」というのは翻訳者が原典を解釈し、それを自分の言葉で伝えようとするものだ。この映画の字幕はそのような翻訳の基本に立ち返り、この映画の本質を観客に伝えようとしているのだ。

そんな余計なことを考えさせるのがコメディ映画としてはどうなのかとも思うのだが、一つの試みとしては面白いし、まもなく公開される続編ではどうなるのかも気になってくる。

DATA
2012年,アメリカ,106分
監督: セス・マクファーレン
原作: セス・マクファーレン
脚本: アレック・サルキン、ウェズリー・ワイルド、セス・マクファーレン
撮影: マイケル・バレット
音楽: ウォルター・マーフィ
出演: ジョヴァンニ・リビシ、ジョエル・マクヘイル、セス・マクファーレン、マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス

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