モンパルナスの灯

Montparnasse 19
1958年,フランス,108分
監督:ジャック・ベッケル
原作:ミシェル・ジョルジュ・ミシェル
脚本:ジャック・ベッケル
撮影:クリスチャン・マトラ
音楽:ポール・ミスラキ
出演:ジェラール・フィリップ、リノ・ヴァンチュラ、アヌーク・エーメ、レア・パドヴァニ

 1917年、パリ、画家のモジリアニはまったく絵が売れず、酒びたりの日々を送る。そんな彼を支えるのは女たちと隣人のズボロフスキーだけ。そんな彼がある日が学生のジャンヌとである。二人は恋に落ち、結婚を約束するが荷物を取りに家に帰ったジャンヌを待っていたのは…
 モジリアニの伝記をジャック・ベッケルが映画化。アヌーク・エーメの美しさ、ジェラール・フィリップのはかなさ。リノ・ヴェンチュラの不敵さ。伝記映画の傑作のひとつ。

 いかにもアル中というていの(悪く言えば型どおりすぎる演技の)ジェラール・フィリップをカメラがすっと捉えると、こちらもすっと映画に入ってしまうのは何故か? ジェラール・フィリップはあまりにはかなく、不運の画家を演じるのにうってつけすぎる。水のように赤ワインを飲み干すその大げさにゆがめた口元の演技の過剰さがむしろ自然に見えるのは何故か。物語はつらつらと進み、われわれはモジリアニを観察する。映像もそのあたりでは遠目のショットで捕らえることが多い。しかし、ジャンヌとで会ったあたりから、カメラは劇的に登場人物たちに近づき、われわれを彼らの視点に引き寄せる。
 そこから、ジャック・ベッケルの演出力とクリスチャン・マトラのカメラは見ている側の観客への感情移入を促すことに専念する。ただひたすら悲惨な境遇のふたり。どうしようもなかった男が愛に誠実に生きるようになる過程。そしてそれを納得させるアヌーク・エーメの美しさ。このメロドラマは周到に結末に向かってわれわれを物語の中に引き込んでいく。そこで登場する不敵な悪役。悪役のわかりやすすぎるキャラクターもすでにメロドラマに引き込まれているわれわれには違和感を与えない。かくして舞台はそろい、役者もそろい、ハッピーエンドに終わってくれという期待を高めながらわれわれはひたすらメロドラマに巻き込まれる。
 ジャック・ベッケルはこのように観客を映画に巻き込んでいく技術に長けている。それはあるときはメロドラマであり、あるときはサスペンスであるけれど、観客をひとつの視点・ひとつの立場に引き込み、結末に向かって突き進ませる力。それがジャック・ベッケルの映画にはある。この映画はそのジャック・ベッケルの演出力がうまく伝記という難しい題材を救った。
 私は伝記映画というのをあまり信用していないのですが、この映画はかなりのモノ。それにしてもこの話がどれくらい実話なのかというのは気になりますね。これがすべて事実だとしたら、モジリアニの人生(の最期)はあまりに劇的で、あまりにメロドラマ過ぎる。しかし、それでも本当だったのだろうと信じさせるものがこの映画にはあります。