2000/3/11
Exile in Sarajevo
1997年,オーストラリア,91分
監督:タヒア・カンビス、アルマ・シャバーズ
撮影:ロマン・バスカ、タヒア・カンビス、アルマ・シャバーズ
出演:サラエヴォの住人たち

 オーストラリアに住むカンビア監督が、戦火の母の故郷サラエヴォへ、亡命者(エグザイル:Exile)としてビデオカメラを持って入る。そこに待ち受けていたのはCNNやBBCが伝えるサラエヴォとは異質なものであった。彼はそこでさまざまな人々に出会い、この戦争の意味をこの戦争に巻き込まれた人々の気持ちを徐々に理解してゆく。そして母の姿も。
 この映画は戦争に対するプロテストとしてみることもできるし、戦争という危機的な状況の中で力強く生きる人々の生活を描いたドラマとしてみることもできるし、家族を主題にした物語としてみることもできるし、恋愛ドラマとしてみることもできる。
 とにかく、傑作。
 決して押し付けがましくないドキュメンタリー。

 単に、戦争の悲惨さや虐殺の残忍さを訴えるのではなく、一方的な視点にとらわれることの恐ろしさを抉り出そうとする。この映画は被害者の一方的な視点にとどまらないテーマ性を持ち、フィクションにも劣らないドラマ性を持つ。
 われわれはNATOの空爆についてニュースで知り、それについて賛否両論投げかけたけれど、実際、NATOというものがボスニアにおいてどのような存在であったのかということは、この映画を見るまでわからなかった。さも、正義の味方であるかのような顔をして世界に鎮座する国連が、決して常に正義の味方ではありえないことも思い知らされた。
 そして、この映画がさらに素晴らしいのは、そのような戦争に押しつぶされずに生きつづける人々を描き出していること。タヒアとアルマ画徐々に惹かれあっていく姿も、爆弾の餌食になってしまう少女ニルバナの姿も、精神的傷を負いながら絵日記を書き綴る少女アミラの姿も、等しく美しい。
  こんな映画に出会えてよかった。この映画はドキュメンタリーという姿をとり、実際にドキュメンタリー・フィルムではあるが、その内容はフィクションよりもドラマティックである。ドキュメンタリーの本質がそのようなものだとは思わないが、フィクションと同じドラマを孕むドキュメンタリーはやはりフィクションより感動的であるということを認識させる。

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