The Million Doller Hotel
2000年,アメリカ,122分
監督:ヴィム・ヴェンダース
原案:ボノ
脚本:ニコラス・クライン
撮影:フェドン・パパマイケル
音楽:ボノジョン・ハッセル、ダニエル・ライワ、ブライアン・イーノ
出演:ジェレミー・デイヴィス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、メル・ギブソン、ピーター・ストーメア、アマンダ・プラマー

 ロサンゼルスのダウンタウンに立つおんぼろホテル「ミリオンダラー・ホテル」。その屋上から飛び降りるトムトムは振り返る。2週間前、エロイーズに恋をしたことから人生は変わったと。そのホテルは奇妙な人ばかりが暮らすただの安ホテルだった。しかし、2週間前、トムトムの親友イジーが屋根から飛び降りたことでFBI捜査官がやってきて、住人たちはその事件に巻き込まれていった。
U2のボノがプロデュースし、ヴェンダースが監督。ロードムーヴィの巨匠からさまざまな方向性を試みたヴェンダースが1件のホテルの中のみに舞台を限定して描いた不思議なドラマ。

 やはりヴェンダースはすごいと思う。ロード・ムーヴィーを捨て、世間の酷評にもまけず、「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」で復活を遂げたヴェンダース。しかし、「ブエナ・ビスタ」はヴェンダースファンにはとても満足のいく作品ではなかったはずだ。そこにはヴェンダースらしさは存在せず、ライ・クーダーの作品を職人的にこなす姿しかなかった。私が望んでいたのは、「夢のはてまでも」のような煮え切らないヴェンダースらしさであって、あんな爽やかな語り部としてのヴェンダースではなかった。
 ヴェンダースがすごいのは、そんな「ブエナ・ビスタ」のヒットから一転、再びらしさを取り戻し、煮え切らない空間をそこにつむぎだしたこと。ボノのプロデュースという話を聞いて、「ブエナ・ビスタ」の二の舞かと心配したが、逆にヴェンダースはすべてのヴェンダース像を覆すような作品を作り出した。ロードムーヴィーとも違う、ドキュメンタリーとも違う、「ベルリン天使の詩」とも違う、そんな作品。これこそが私が望んでいたヴェンダースらしさなのだ。見ているものすべての期待を裏切り、映画であることを拒否するような姿勢。その姿勢こそがヴェンダースらしさだと私は思う。
 この映画は観客を拒否し続ける。そもそもの主人公たちがもれなくわれわれの理解の範囲を超えた存在である。トムトム、エロイーズ、捜査官さえもいったい何をしようとしているのか、何をしてきたのかわからない。そしてその一部(あるいは大部分)は明らかにされることがないまま終わる。しかし彼らは間違いなく「普通」とされる人々より魅力的で人間的である。
 どうも感想がうまく言葉にできないのですが、おそらく世の人々には受け入れられないであろうこの映画が実は歴史に残る名作かもしれないと言いたい。ヴェンダースはわれわれがまったく想像もしないものを作り出した。われわれの想像もしないことを作り出す、意表をつく、期待を裏切るということこそがヴェンダース映画の本質であり、この映画はそれを凝縮したようなものであると。「さすらい」の中で一番私の印象に残ったのは冒頭の、車が川に転落するシーンだった。
ロードムーヴィーとして有名な作品にもかかわらず、道行の途中のイヴェントではなく、旅に出る前の単純なひとつの意表をつく出来事が一番印象に残っている。これがヴェンダースだと私は思う。だから観客の意表をつきつづけるこの作品こそこの映画はまさにヴェンダースらしい作品であり、われわれの想像を超えたすごい作品だといいたいのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です