都会のアリス

Alice in den Stadten
1973年,西ドイツ,111分
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、ファイト・フォン・フェルステンベルク
撮影:ロビー・ミューラー
音楽:CAN
出演:リュディガー・フォグラー、イエラ・ロットレンダー、リサ・クロイツァー、エッダ・ケッヒェル

 ポラロイドで写真を撮りながら、アメリカを放浪していたドイツ人作家フィリップは持ち金も底をつき、ドイツに帰って旅行記を執筆することにした。しかし、おりしもドイツでは空港がスト、アムステルダム経由で帰ることにするのだが、そのとき空港で出会った女性に娘のアリスをアムステルダムまで連れて行ってくれと頼まれる。
 いわゆるロード・ムーヴィー三部作の1作目。白黒の画面は淡々として余計な説明が一切ない。表情と風景がすべてを物語る。説明がなく、しかも劇的なプロットがあるわけでもないので、その静寂の奥にこめられた意味を探ってしまう。 

 「移動する」ということによって物語りは活気を帯びる。そしてフィリップとアリスの関係も変化してゆく。二人は互いに語ることはほとんどないのだけれど、そこで交わされる言葉にならない交流がこの映画の最大の魅力だろう。言葉にならないのだから、ここで文章で表現するのは難しいのだけど、誤解を恐れず単純化してしまえば、結局のところ焦点となっているのはフィリップの「癒し」なのかもしれない。アリスももちろん主体的に成長する存在として描かれているのだけれど、映画にとっては「従」の存在でしかないのかもしれない。
 という気がしました。しかしこの見方にはきっと異論があることでしょう。異論反論はどしどしお寄せください。 
 あとはやはり映像ですね。ヴェンダースは映像作家といわれ、映像の美しさには定評があるので、ここでことさら語ることはしませんが、彼の「絵」の最大の魅力は「隙」だと思います。何もない部分、何かがあることによって強調される何もない部分(たとえば白く塗りつぶされたようなくもり空)の存在感がなんともいい味を出しています。 

ベルリン・天使の詩

Der Himmel Uber Berlin
1987年,西ドイツ=フランス,128分
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、ペーター・ハントケ
撮影:アンリ・アルカン
音楽:ユルゲン・クニーパー
出演:ブルーノ・ガンツ、ソルヴェーグ・ドマルタン、オットー・ザンダー、ピーター・フォーク

 ベルリンを舞台に天使たちの視点から世界を描く映像美にあふれた作品。天使たちの世界は白黒で、人々の考えていることが耳に飛び込んでくる。そして、彼らを見ることができるのは子供たちだけ。
 物語は一人の天使ダミエル(ブルーノ・ガンツ)とその親友カシエル(オットー・ザンダー)の視点から進んでゆく。ダミエルはこどもたちにふれ、永遠の霊の世界に嫌気がさし、人間になりたいと思い始める。これに対しカシエルは不幸な人々を癒すことに努める。
 二人の天使が見たセピア色の世界が美しい。各ショットのフレームの切り方、画面の隅々まで作りこまれた映像美が心に残る。 

 ヴィム・ヴェンダースといえば、映像の美しさが有名だが、この作品はその映像美のきわみ。各ショットショットのフレームの隅々までが計算し尽くされ、寸分の好きのない映像が流れつづける。たとえば、カシエルと老人がポツダムの町を歩くとき、背後の鉄橋の上を一人の男が歩いている画なんて、筆舌に尽くしがたい美しさだと思いますが。
 画の使い方という点では、天使のヴィジョンがモノクロで、人間になるとカラーというのも非常に効果的。さらに、天使のモノクロのヴィジョンも微妙に差があるというところが巧妙なところだろう。カシエルのヴィジョンは一貫して白と黒なのに、ダミエルのヴィジョンはセピア色だったり、微妙に色がついていたりする。
 このような画が作り出せるのは、画面の隅々まで作りこまれているからだろう。建物の壁や天井、小物にいたるまですべてをおろそかにしない精神。この精神はヴェンダースが小津安次郎から学んだものだろう。映画の最後に「すべてのかつて天使だった人たちにささげる、特に安次郎とフランソワに」と言及してもいた。