Der Heiling Berg
1926年,ドイツ,90分
監督:アーノルド・ファンク
脚本:アーノルド・ファンク
撮影:アーノルド・ファンク、ヘルマー・ラースキー、ハンス・シュニーベルガー
出演:レニ・リーフェンシュタール、ルイズ・トレンカー、エルンスト・ペーターセン、フリーダ・リヒャルト、ハンネス・シュナイダー
踊り子のディオティーマと登山家のコリ、コリの友人でスキーヤーのヴィゴ。ディオティーマが2人の山の男に出会い、恋物語が始まる。牧歌的な雰囲気だが、冬になると山は激変し人を死へと誘い込む世界になる。そんな冬の山に果敢に挑戦する男たち、それを待つ女。
『スキーの脅威』『アルプス征服』など山岳を舞台にした映画を主に撮るアーノルド・フィンクが後の女性監督となるレニ・リーフェンシュタールを主役に起用して撮ったサイレントのドラマ。レニ・リーフェンシュタールの女優デビュー作でもある。レニ・リーフェンシュタールは同監督の『死の銀嶺』『モンブランの嵐』などにも出演している。
レニ・リーフェンシュタールはそもそもダンサーで、それが女優になり、監督になって、ナチスにからめとられて、ナチスの宣伝映画のようなものを撮ってしまい、戦後は映画監督として世に出ることはできず、アフリカの先住民の写真などを撮ってカメラマンとして地位を築いたというものすごい人なわけですが、そのレニ・リーフェンシュタールの女優としての出発点がこの作品。
決して美人ではなく、しかしダンサーというだけに表現力はものすごい。やはりサイレントの時代には肉体に表現力のある人が好まれたのでしょう。とくにこの映画のように精神的というよりはある種のスペクタクルを見せる映画の場合は、ぱっとビジュアルで表現できる人が重宝される。だから、この監督はこれ以後もレニを使い続けたということ。
レニ・リーフェンシュタールのことは勉強不足で語ることができないので、この映画について書くことにしましょう。
この映画はドラマとしてはあまり面白いものではない。おそらく上映された当時もドラマとして観客を引き込むというよりは「自然の驚異!」みたいな、今で言えば「ディスカバリー・チャネル」、ちょっと前なら「野生の王国」的なものとして人々の好奇心を満たすものだったのではないかと推測できます。
そのような点から見ると、この映画はとてもよくできている。当時の編集や特殊効果の技術を差し引いても、見るべきものはある。
なんといっても感心するのは縦の構図の使い方。映画の画面というのはスタンダード・サイズ(今のテレビと同じ1×1.33の画面)でも横長なわけで、基本的には横に構図を考えざるを得ない。だから縦の構図というのは非常に作りずらい。しかし、この映画では大胆に画面を切り取って縦の構図を作ってしまう。本当に画面の左右を黒で埋めて細長い画面を作ってしまう。これはちょっと反則という気もしますが、とりあえず縦の構図というものに意識を持っていくことには成功する。
圧巻はこの映画最大の見せ場とも言える、「聖なる北壁」の登頂場面。ここでは画面サイズはそのままに縦の構図をしっかりと見せる。このシークエンスは断崖絶壁を上るシーンの連続で、とにかく上へ上へと映画は進む。これが縦の構図で非常に美しい。崖以外の部分はそれで埋めて、時間や天気の変化を表現するので画面に無駄もない。
さらに、ここにインサートされるレニ・リーフェンシュタールの部屋のシーンの構図がうまい。ものすごいロングで部屋を捉え、ものすごく立てに長い窓がある。この縦長が縦の構図という共通性を山登りのシーンとの間に築くことでシークエンスに一体感を与える。
このシークエンスはうなります。この監督立てに山の映画(「山岳映画」というらしい)ばかり撮っているわけではないらしい。
こういう場面に出会うと、映画があまり面白くなくても、我慢してみていてよかったと思います。