ガッジョ・ディーロ

Gadjo Dilo
1997年,フランス=ルーマニア,100分
監督:トニー・ガトリフ
脚本:トニー・ガトリフ
撮影:エリック・ギシャール
音楽:トニー・ガトリフ
出演:ロマン・デュリス、ローナ・ハートナー、イシドア・セルバン

 フランス人のステファンは、父が生前聞いていたテープの歌い手「ノラ・ルカ」を探して、ルーマニアを旅する。その途中彼はロマと呼ばれる音楽家たち(いわゆる「ジプシー」)に出会い、彼らが「ノラ・ルカ」のところにつれてっくれると信じ、彼らの村に滞在する。
 音楽と映像が美しく絡み合い、ひとつのアートとしての統一感を持つ作品。「ロマ」に強い思い入れを持つガトリフ監督のロマものの中でも一番のできでしょう。

 「ジプシー」という言葉は差別語とみなされ、最近では「ロマ」を使うのが適切だとされているようだが、この作品を見ていると、そんな名称なんてどうでもいいという気になってくる。
 イシドールの顔に刻まれた一本一本の皺からも音楽が聞こえてくるような、空間すべてが音楽で満たされているような、そんな素晴らしい映画。ロマやジプシーといわれて思いつくのは、エミール・クストリッツァの「ジプシーのとき」という映画で、これも素晴らしい映画でしたが、もっと殺伐としていて、悲哀にみちた映画でした。どちらが本当ということはないですが、厳しい生活の中でも、明るい生活を送っているということが伝わってくるこの作品のほうが好みではあります。
 ガトリフ監督には「ベンゴ」という映画もありました。これはアンダルシアを舞台としたフラメンコ映画で、場所こそ違えどこの映画と近しいものを感じます。ほかには「ガスパール 君と過ごした季節」(ビデオでは、「海辺のレストラン ガスパール&ロバンソン」というタイトルになっているはず)、「MONDO」という作品もありました。どちらもなかなかいい作品。紹介できたらしたいところですね。

ベンゴ

Vengo
2000年,スペイン=フランス,89分
監督:トニー・ガトリフ
脚本:トニー・ガトリフ
撮影:ティエリー・ブジェ
音楽:アマリエ・デュ・シャッセ
出演:アントニオ・カナーレス、ビリャサン・ロドリゲス、アントニオ・ペレス・デチェント、フアン・ルイス・コリエンテス

 アンダルシアの小さな町で開かれるパーティー、それを主催するカコ。彼は体の不自由な甥ディエゴを溺愛し、娼婦の世話までしようとする。しかし陽気に振舞う2人はカコの娘ペパの面影を忘れることができなかった。
 途切れなくフラメンコの音楽がかかり、情熱的に迫ってくるこの映画は「観る」というより「浴びる」のがいい。

 映画を「浴びる」。圧倒的に迫る音楽は冷静に映画を見せてはくれない。ひたすらに降り注ぐ音楽と映像を浴び、その中に浸り、それによって押し付けられる感情に浸る。否応なく感じさせられる怒りあるいは苦悩にもいらだつよりは身を任せ、映画が押し進むその方向に押し流されていくことで何とか映画を消化できる。
 連続するクロースアップや(過度といっていいほどに)雄弁にものを語る登場人物の表情が暴力的ではあるけれど確実に見るものの感情をコントロールする。
 という映画です。確かに力強いけれど、ちょっと暴力的過ぎるかなという気がします(内容ではなく映画として)。そして音楽の映画ということで、さすがに音楽は素晴らしいですが、演奏シーンはすごく長い。兵隊が寄ってくるところのようにちょっとまわりにエピソードを加えたり、カコの夢と現の間のようなシーンみたいに映像的な工夫がなされているとその長さも苦にならないのだけれど、ひたすら演奏を映しているシーンはちょっと長すぎるかなという気はしました。
 音楽に浸って忘我したいという気分にはぴったりかもしれません。プロットもそれなりに練られていたし。やはりガトリフは自分の世界をしっかりと構築しているので、着実にいい作品を作ります。大きくはずすことはない。この映画はガトリフとしてはちょっと平凡な映画になってしまった感も無きにしも非ずですが、これが彼の世界なのでしょう。