親指バットサム

Bat Thumb
2001年,アメリカ,28分
監督:ディヴィド・ボウラ
脚本:スティーヴ・オーデカーク
出演:スティーヴ・オーデカーク、ジム・ジャクソン

 スティーブ・オーデカークが心血を注ぐ「親指」シリーズの第4作。前作から監督業を退き、脚本と出演(声と親指)に専念。とにかくオーデカークの親指好きとパロディ精神から始まったこの企画。いったいいつまで続くのか。
 今回は『バットマン』のパロディで、映画を下敷きにコミックやアニメのテイストを加える。とにかくくだらないのはいつものとおり、お下劣さは他の作品よりちょっと弱め。親指についた顔のCGがだんだん自然になってきているのがなんだかすごい。

 今回の目玉はなんといってもCGの多用。今までの作品より格段にいいCGを使っている。バットサムがビルから飛び降りるシーンにかなりリアルなCGが使われていて、バットサム自体もCGで作られていて、親指で演じているものよりそっちのほうがかっこいいけど、一瞬しか映らない。こんな高度な技術を使えるにもかかわらず、あくまでローテクでやるのがこのシリーズの面白さなので仕方がない。
 意味がわからないが笑えてしまうネタが多く、その中でもブルー・ジェイが何故かバットサムに常にくっつきたがるというのがいい。バットサムの登場シーンでチンピラとわけのわからない会話をしているのもいい。ここの会話は世の中にあふれる犯罪映画をパロディ化することで、それがいかにリアルではないかということを明らかにしている。
 オーデカークがこのシリーズを作り続けるのは、(親指がすきなのと)そのような風刺精神を遺憾なく発揮できるからだろう。人が演じるパロディよりも親指が演じるパロディのほうが当たりが優しくなるので、いろいろと言いたいことが言えるんじゃないでしょうか。とは言っても作るのは多分結構大変で、指にいちいち顔を入れるだけでも大変。衣装とかを作るのも多分大変。でも、顔のNGはなんだかどんどん自然になってきて、見ていて違和感がなくなってしまった。違和感があったほうが面白いんだけど、なれとは恐ろしいものだ…
 最近はCGもののNG週がはやっているのか、このビデオの最後にもおまけ映像としてボツカットやインタビューなんかが入ってました。これもまたパロディー。そういえば、シリーズに必ず登場する一つ目指がエンドクレジットで「as himself」となっていたのがかなりマニア心をくすぐります。

ザ・ロイヤルテネンバウムズ

The Royal Tenenbaums
2001年,アメリカ,110分
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン、オーウェン・ウィルソン
撮影:ロバート・D・イェーマン
音楽:マーク・マザースボウ
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、ダニー・グローヴァー、ビル・マーレイ

 天才児として知られたテネンバウム一家の3人の子供たち、長男チャスは投資家として、長女マーゴは劇作家として、次男リッチーはテニス・プレイヤーとして、成長した。しかし今は3人とも問題を抱え、チャスは事故で妻をなくし、マーゴはバスルームに閉じこもり、リッチーは長い船旅に出ていた。そんな3人の父親は20年前に別居していらいホテルで暮らしてきたが、破産し、ホテルを追い出されることになった。『天才マックスの世界』で認められたウェス・アンダーソンが豪華キャストでとったひねりの効いたコメディ。全体的に70年代テイストで統一されているのがなかなかいい。

 全体的にスピード感のあるコメディではなくて、妙なおかしさを狙ったコメディ。リアルに作ることを放棄し、すべてにおいて作り物じみたおかしさを狙う。これがこの映画の笑いの作り方。だからさいしょから人物を正面から中心に捕らえるショットが多い。会話の場面など、普通は空間を出すために斜めから人物をとらえるんだけれど、それをしないことで会話自体が不自然になる。それにともなって切り替えのタイミングもチョっとずらし、会話の間も不思議な感じにする。
 そのような妙なおかしさがそれほどギャグやネタがあるわけでもない映画をコメディとして成立させている。コメディ的なキャラといえば、わたしが好きなのはパゴダ。かなりボケが効いていて、ロイヤルの横で看護士の姿をしていたりするのはかなり笑える。あとはイーライの部屋に掛かっている絵とか、タクシーとか、バスとか。このタクシーとバスというのはとくに笑いを誘うわけではないのですが、とてもいいネタでここにこそこの監督のすごさが出ていると思います。最初に止めるタクシーのぼろさにびっくりしますが、その後出てくるどのタクシーも同じ「ジプシー・キャブ」、バスもずっと同じバス。こういう地味なネタはとてもいいですね。
 どんなに書いても多分おかしさは伝わらない。そういう映画だと思います。それにしても予告編が面白かった割りに、字幕が相当ひどかった。英語をなんとなく聞きながら主に字幕を見ているわけですが、なんだか面白くない。セリフのおかしさがちっとも字幕から伝わってきません。この人はきっとコメディを理解していないんだ、そんな疑問を抱きながら映画を見ていて、それが最後の最後で決定的に。最後の墓碑銘のネタ、映画中に伏線が張られていて、オチになるはずなのに、あの字幕はひどすぎる… やっつけ仕事かオイ!

ロミーとミッシェルの場合

Romy and Michele’s High School Reunion
1997年,アメリカ,91分
監督:デヴィッド・マーキン
脚本:ロビン・シフ
撮影:レイナルド・ヴィラロボス
音楽:スティーヴ・バーテック
出演:ミラ・ソルヴィーノ、リサ・クドロー、ジャニーン・ガロファロー、アラン・カミング

 高校から親友で、ロサンゼルスに出て10年間ずっと一緒に暮らしてきたロミーとミッシェル、車の修理工場でキャッシャーをやっているロミーと、仕事もなく、2人の服を自分で作っているミッシェル。そんな2人のところに高校の同窓会の便りが来た。高校時代を振り返り、自分たちは決して人気者でなかったことを思い出す2人だが…
 ミラ・ソルヴィノと『フレンズ』のリサ・クドロー主演のコメディ。コメディとはいっても、ストレートな感じではなく、アンチクライマックスで変化球な感じ。リサ・クドローが『フレンズ』のままのとぼけたキャラで笑いを誘う。

 コメディという頭で見始めて、確かにコメディなんだけど、どうも笑いどころが少ないというか、テンポが悪くて、話が進んでるんだか戻ってるんだか、右にいってるのか左にいってるのか、なんのこっちゃらさっぱりわからん。感じなんですが、2人がクラブに行って踊るなぞの踊りからしても、ミッシェルが作っているという普段の服からしてもふたりのダサかっこよさが眼目になっているだろうことはわかる。
 それにしても妙な「間」で、とにかくすべての「間」が長い。ぽんぽんとテンポよくギャグの応酬という感じではなくて、なんかおこったら長い「間」があって、物語が展開しそうであいだに他のエピソードが入って、しまいにはやけに長い夢が出てきて、こりゃ最後のドカンと落とすのかと思ったら、さらに妙な「間」のダンスシーンが。しかし、このダンスシーンは最高。とてもわけのわからない笑いのセンスに脱帽。この監督は何者なのか… このダンスシーンはMTVムービー・アワードのダンスシーン賞(そんな賞があったんだ…)にもノミネートされたらしい。
 というなんだか気の抜けた笑いと気分に襲われる脱力系コメディ。アメリカのコメディらしく人生とか友情なんかについても考えさせちゃったりして、ふだん肩いからせて歩いている人はこんな映画を見てください。
 人生で一番大事なもの。それは「笑い」ふふふふふ(不気味)。