ブラジル出身で現在はNYを拠点に活躍する現代アーティストのヴィック・ムニーズ。彼はさまざまな材料を使って絵を描き、それを写真に収めた作品を作ってきた。そのヴィックがリオ・デ・ジャネイロにある世界最大のゴミ処理場に2年間滞在し、作品を作るというプロジェクトを始める。ブラジルでの相棒ファビオとともにゴミ処理場に赴き、そこで働く“カタドール”と呼ばれる人々をモチーフにそこにある「ゴミ」を使って作品を作り始める。
現代アーティストのヴィックがアートを通じてゴミ処理場で働く人々と交流し、彼らを変えていく過程を描いた感動的なドキュメンタリー。監督は「カウントダウンZERO」などのルーシー・ウォーカー。
まず圧倒的なのは、このゴミ処理場。本当に広大で、そこにトラックが次々とやってきてはゴミを落としていく。そのゴミは全くといっていいほど分別されておらず、その文字通りの「ゴミの山」の中からペットボトル、金属、紙などのリサイクルできる素材を拾い集めるのが「カタドール」と呼ばれる人々だ。彼らはスモーキー・マウンテンのストリート・チルドレンのような浮浪者ではなく、正規の労働者としてそこにいる。もちろんゴミ処理場の社員ではないが、敷地内に立てられたバラックに暮らし、ちゃんと賃金をもらって生活しているのだ。そして、労働者自らが自治組織を立ち上げ、自助を行おうともしている。
そして、彼らを見てまず驚くのは、意識が高いことだ。彼らは自分たちがリオ・デ・ジャネイロのリサイクルを支えていることを知っているし、この境遇から抜け出すためには教育が必要だと考え、自分たちの考えを表明してもいる。貧しいには違いないが、売春婦や乞食とは違うということに誇りを持ってもいるのだ。
ヴィックとファビオはこのゴミ処理場の彼らの姿に美しさを感じ、彼らを作品にし、その作品の売上を彼らに還元しようと考える。具体的には、何人かを選んでポーズを取らせて写真を撮り、その写真をゴミ(カタドールたちに言わせるとリサイクル素材)で再現し、それを再び写真に収めて作品とする。ゴミを並べる作業はその作業は彼ら自身にやってもらい、作品はオークションで販売するというもの。
この作品で感動的なのは、その作品の美しさもさることながら、それにたずさわるカタドールたちの変容のあり方だ。それまでも彼らは彼らなりに知識や誇りを持っていたが、アートに関わることで彼らの世界は一気に広がり、心の持ち方が変わっていく。自分自身を見つめなおして、これからどう生きていくのかを改めて考えるのだ。その意識の変化が現れる彼らの表情が非常に美しい。
アリス・ウォーカーはその瞬間をほんとうに見事に捉えている。特に自分がモチーフになった作品が出来上がったのを見た瞬間の彼らの表情はほんとうに素晴らしい。これぞまさに映像が言葉では語れないことを語った瞬間であり、映画が映画たるゆえんだ。
タイトルからすると「MOTTAINAI!」的な環境ドキュメンタリーのように見えるが、むしろ人間を生々しく捉えた人間ドラマであり、「生きる」ということを捉えたドキュメンタリーであると思う。ブラジルはどんどん発展している国ではあるけれど、貧富の差は激しく社会にはさまざまな歪みがある。ヴィック・ムニーズ一人でその歪みを治すことはできないけれど、アートの力が人を変え、それが少しずつ社会を変えていくことはあるという希望をこの映画は提示してくれる。
映画を見ていて「音楽の力ってすごい」と思うことは結構あるけれど、こんなふうに「アートの力ってすごい」と思える映画にはなかなか出会えない。そういう意味で非常に良い映画だと思う。
DATA
2011年,イギリス=ブラジル,98分
監督: ルーシー・ウォーカー
撮影: ドゥドゥ・ミランダ
音楽: モービー
出演: ヴィック・ムニーズ
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