最後の戦い

Le Dernier Combat
1983年,フランス,90分
監督:リュック・ベッソン
脚本:リュック・ベッソン、ピエール・ジョリヴェ
撮影:カルロ・ヴァリーニ
音楽:エリック・セラ
出演:ピエール・ジョリヴェ、ジャン・ブイーズ、ジャン・レノ

 近未来、ほとんどの人が死に絶えた世界、一人の男が砂漠化した地域のビルの一室に住んでいる。彼は一人過ごしながら、飛行機を作ろうとしていた。一方砂漠の中には、車ですごす一群がいる。そこに男が武器を持って向かう…
 白黒の画面にセリフなし(音がないのではなくてセリフがない。たぶん声を出すことができないという設定)というかなり実験的というか、不思議な条件で映画を作ったリュック・ベッソンの監督デビュー作。
 リュック・ベッソン自身でも、他の監督でも、こんな世界は見たことがない。この映画以前でも、この映画以後でも。

 この映画のリュック・ベッソンは自由だ。自由を利用してわざわざ不自由な映画を撮るところにリュック・ベッソンらしさというか、センスを感じてしまう。実験映画っぽくもあるんだけれど、コミカルな面もあり、とても不思議な感じ。
 言葉がしゃべれないことによって有効になるのは、謎が深くなるということ。ジャン・レノが荷物を持っていく家とジャン・レノとの関係はどんなものなのか、全く持ってわからないが、言葉を使ってしまうと、関係性はすぐにあかされてしまうだろう。それをなぞめいたままにするというところはなかなかうまい。
 最終的にこの映画はなんなんだ、ということになると、これはアクション映画で、やはりリュック・ベッソンの本領はアクション映画で、それはデビュー作から貫かれているということか。アクションとしては、なんともドン臭いけれど、言葉がないことで、逆に緊迫感が増す。

 なんとも書くことがないのは、この映画が哲学的な風を装いつつ、実はアクション映画であるということか。もちろん、純粋なアクション映画というのも賞賛するけれど、面白い!というと、それで終わってしまうような感じもある。特にこの映画の場合は哲学的な風を装っているので、なんか考えてしまうと、特に何かがあるわけではないという不思議な感じを伴っている。そのあたりはリュック・ベッソンのスタイルというか、普通のアクション映画とは違うしゃれた感じを作り出す秘訣というか、そんなものなんでしょう。
 全体的には音楽お使い方なども含めて、アニメっぽい印象を持ちましたね。リュック・ベッソンもフランス人に多いジャパニメーション・ファンの一人なのか?

トニー・ヒル作品集

1984~93年,イギリス,44分
監督:トニー・ヒル
撮影:トニー・ヒル
出演:キース・アレン、ジェームズ・モーガン、ボニー・ヒル

 イギリスの映像作家トニー・ヒルの短編を集めたオムニバス。
 作品は「車輪の歴史」「ヴュアーを持つ」「時報映像」「ウォーター・ワーク」「拡張映画」「ダウンサイド・アップ」の6本。
 この作品群の特徴は人間と重力の関係の安定性を奪うカメラワーク。カメラを固定する点が重力とはまったく無関係に設定されるので、不思議な空間感覚を味わうことが出来る。

 最初の「車輪の歴史」で車輪に固定されたカメラが出てきてこれがかなり面白い。いってしまえば風景がぐるぐると回るだけだが、そのまったく変化させられて視線というのはなんとなく楽しく新鮮だ。それは他の作品でも継続していくが、より明らかになっていくのは「重力」に対する反抗心。「ウォーター・ワーク」の中で壁を蹴って歩く人なんかは完全に重力(ここでは浮力も)を敵にまわしてがんばっている。
 見て、感じて、それがすべてという感じ。大画面で見ればよりいっそうのトリップ感が得られたと思う。