Jazz seen/カメラが聴いたジャズ

Jazz Seen: The Life and Times of William Claxton
2001年,ドイツ,80分
監督:ジュリアン・ベネディクト
脚本:ジュリアン・ベネディクト
撮影:ウィリアム・クレサー
出演:ウィリアム・クラクストン、ペギー・モフィット

 ウェスト・コースと・ジャズのジャケットをはじめとしたアーティスト写真に加えファッション写真でも名を上げた写真家のウィリアム・クラクストン。彼の半生をインタビューに再現ドラマを加えて語る。
 モデルであり、パートナーであるペギー・モフィットに加え、デニス・ホッパー、カサンドラ・ウィルソン、ヘルムート・ニュートン、バーと・バカラックなどが登場し、クラックストンについて、あるいはクラクストンと語る。

 ドキュメンタリーらしいドキュメンタリーというか、しゃれた「知ってるつもり」というか、そんなものです。「知ってるつもり」にしてはセンスもよく、出てくる人たちもものすごいということですが、基本的なスタンスは変わりません。なんといっても再現ドラマを使うというところがなんだかTV番組っぽい。別にTV番組っぽくて悪いということはありませんが、あの再現ドラマは本当に必要だったのか?という疑問は残ります。
 監督のジュリアン・ベネディクトは『BLUE NOTE/ハート・オブ・モダン・ジャズ』というジャズ・ドキュメンタリーを撮っているだけに、おそらくクラクストンに共感を感じているのでしょう。彼の作品を撮影する仕方は非常にいい。劇中でも述べられているようにクラクストンの写真の構図は非常にすばらしいのですが、その構図の美しさをうまくフィルムにのせている。
 まあしかし、ドキュメンタリー映画というよりはやはり教養番組ととらえたほうがいいんでしょうね。ジャズと写真というなんだかしゃれた教養を身につけた大人のための(あるいは大人になるための)教養番組という感じ。教養番組も面白くないと身につかないので、面白さは必要。この映画を見ていると、クラクストンにも興味がわくし、写真にも興味がわくし、ジャズにも興味がわく。ということで、とてもよい教養番組だということでしょう。
 ヘルムート・ニュートンとの写真の専門的な話とか、4×5のカメラとか、35ミリのフィルムとか、専門的な話もあるのですが、そこを下手に解説しないところがいい。そのわからなさがなんだか味わいでもあるという気がします。

あの頃ペニー・レインと

Almost Famous
2000年,アメリカ,123分
監督:キャメロン・クロウ
脚本:キャメロン・クロウ
撮影:ジョン・トール
音楽:ナンシー・ウィルソン
出演:ビリー・クラダップ、フランシス・マクドーマンド、ケイト・ハドソン、パトリック・フュジット、アンナ・パキン

 サン・ディエゴに住む少年ウィリアムは大学教授の母親のもの、非常に厳しく育てられた。そんな厳しい家庭環境でウィリアムの姉はハイ・スクールの卒業とともに家出、ウィリアムスにロックのレコードを残していった。それからロックの世界にのめりこんでいったウィリアムスは15歳で地元の音楽雑誌に評論を載せるほどになった。
 キャメロン・クロウの実体験を元に、70年代のロック界を描いた作品。少年の成長物語でもあり、時代へのオマージュでもあり、などなどといろいろな要素が盛り込まれた秀作。

 結局のところ少年の成長物語なのだけれど、そこにうまく音楽を使い、時代性を持ち込み、まとまりのある世界を作り出す。実体験に基づいているというだけにプロットの進め方に力があり、物語にすっと引き込まれる。これがこの映画の全てかもしれない。映像も普通で、つまりさりげなく、時間の流れ方も滞りない。特に緊張感が高まるシーンもなく、先の見えないミステリーというものがあるわけでもない。それでもこれだけ力強く物語を転がしていけるのだから、なかなかのものといわざるをえないというわけ。
 この映画で印象的なのは、どうしてもペニー・レイン=ケイト・ハドソンの顔です。もちろんアップが多いというのもありますが、なんとなくパッとひきつけられる表情を浮かべています。それほど美人というわけでもなく、好みでいえばアンナ・パキンのほうが好きだけど、この映画ではケイト・ハドソンが映るとはっとしてしまう。ウィリアムスに自己同一化していたという事なのか、それともケイト・ハドソンの力なのか、キャメロン・クロウの撮り方なのか?
 撮り方で言えば、これはあくまで印象ですが、ケイト・ハドソンのクロースアップでは、背景がぼやけているシーンが多かったような… クロースアップというのは概して背景にはピントがあっていないものですが、この映画のケイト・ハドソンの場合は意識的にそんな演出がなされていたのかもしれないとふっと思いました。気のせいかも。
 でも、それは効果として幻想的な、夢うつつなイメージを生むものだから、ウィリアムスの心理とは一致していていいのではないの? やっぱり意識的なのかも。それは監督かカメラマンか当人だけが知る意図ですが、こんな疑問を見つけると、同じ映画をくり返し見たくなります。

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

Buena Vista Social Club
1999年,ドイツ=フランス=アメリカ=キューバ,105分
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース
撮影:ロビー・ミューラー、リサ・リンスラー、ボルグ・ヴィドマー
音楽:ライ・クーダー
出演:イブラヒム・フェレール、コンパイ・セグンド、エリアデス・オチョ、アライ・クーダー

 1997年、ライ・クーダーがキューバの老演奏家たちに惚れ込んで作成したアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は世界中でヒットし、グラミー賞も獲得した。98年、ライ・クーダーはヴェンダースとともに、再びキューバを訪れた。そこで撮った、老演奏家たちのインタビュー、アムステルダムでのライヴの模様、NYカーネギー・ホールでのライヴの模様を収めた半ドキュメンタリー映画。
 これは決してドキュメンタリーではない。一言で言ってしまえば、ライ・クーダーのプロデュースによる、アフロ・キューバン・オールスターズの長編ミュージックビデオ。

 この映画を見て真っ先に思ったのは、これは映画なのか?ドキュメンタリーなのか?ということ。それは、映画orドキュメンタリー?という疑問ではなくて、映画なのか、そうでないのか? ドキュメンタリーなのか、そうでないのか? という二つの疑問。答えは、ともにノー。これは映画でもドキュメンタリーでもない。無理やりカテゴライズするならばミュージックビデオ。ドキュメンタリー映像を取り入れ、映画的手法をふんだんに使ったミュージックビデオ。もちろん、ライヴの場面は実際の映像で、そこだけを取り上げればドキュメンタリーということになるのだけれど、インタビューの部分は決してドキュメンタリーではない。それはやらせという意味ではなく、映画的演出が存分にされているということ。一番顕著なのは、トランペッターの(オマーラ・ポルトゥオンドだったかな?)インタビューに映るところ。前のインタビューをしている隣の部屋に彼はいるのだけれど、彼のところにインタビューが映る瞬間(カットを切らずに、横にパンしてフレームを変える)彼は唐突に演奏をはじめる。しかも部屋の真中に直立不動で。これは明らかに映画的演出。
 もうひとつは、撮り方。この映画で多用されたのが、被写体を中心にして、カメラがその周りを回るという方法。言葉で説明しても伝わりにくいかもしれないけれど、要するに、メリー・ゴー・ラウンドに乗って、カメラを持って、真中にいる人を移している感じ。この撮り方が演奏やレコーディングの場面で多用されていた。これは映像に動きをつけ、音楽とうまくマッチさせる手法ということができる。これはミュージック・ミデオでも見たことがあるような気がするが、この映画では非常に効果的に使われていた。
 何のかのと言っても、結局はおっちゃんたちがかっこいい。ライ・クーダーが惚れたのもよくわかる。一応、映画評なのでごたくを並べただけです。かっこいいよおっちゃん。

イヤー・オブ・ザ・ホース

Year of the Horse
1997年,アメリカ,107分
監督:ジム・ジャームッシュ
撮影:ジム・ジャームッシュ、L・A・ジョンソン、スティーヴ・オヌスカ、アーサー・ロサト
音楽:ニール・ヤング、クレイジー・ホース
出演:ニール・ヤング、フランク・パンチョ・サンペドロ、ビリー・タルボット、ラルフ・モリー、ジム・ジャームッシュ

 20年以上も活動を続けているバンド、ニール・ヤング・アンド・クレイジー・ホースのドイツでのライブ映像とインタビューでクレイジー・ホースの活動を追うドキュメンタリー。
 自身クレイジー・ホースの大ファンであるジム・ジャームッシュが独特の感性で作ったミュージックビデオといえばいいだろうか? ライブ映像は一曲ずつフルコーラスやるので、ロック好きではない人には少々つらいかもしれない。しかし、ロック好き! という人にはたまらない作品。クレイジー・ホースの痺れるような演奏がとことん聞ける。あるいは、ロックというものに興味がなかった人(最近は、そんな人もあまりいないか)もこの映画を見れば、その力に圧倒されるかもしれない。
 ジム・ジャームッシュらしさもそこここに見られ、特に映像(ライブ以外の部分)に注目すれば、ジャームッシュの映画と実感できる。 

 まず、最初に誰もいないインタビュールーム(といってもこ汚い部屋)が映った時点で、「あ、ジャームッシュ」と思わせるほどジャームッシュの映像は独特だ。この部屋のような空間の多いものの配置がいかにもジャームッシュらしい。今回は、編集が「デッド・マン」などで組んだジェイ・ラビノウィッツであるというのも、ジャームッシュらしさが感じられる一因であるのだろう。
 それはさておき、ニール・ヤングとクレイジー・ホースがとにかくかっこいい。このギターおやじたちは何者だ? と思った方も多いかと思いますので、私の浅い知識で解説。ニール・ヤングといえば、いわずと知れた伝説のギタリスト。恐らく60年代から、バッファロー・スプリングフィールドに参加、その後CSNY(クロスビー・ステルス・ナッシュ・アンド・ヤング)に少し参加。あとはソロで活動したり、いろいろな人の横でギターを弾いたりしている人。ジャームッシュとの関係で言えば、「デッド・マン」で音楽を担当。クレイジー・ホースについては私も映画以上の知識はないんですが、ニール・ヤング単体の音と比較した場合、クレイジー・ホースのほうが明らかに轟音ですね。とにかく、一つのバンドに長くいることのないニール・ヤングが20年以上も活動しているということを考えると、これこそがニール・ヤングのバンドなのでしょう。
 とにかく、ジャームッシュがファンだということは伝わる。彼等の魅力を自分なりに伝えようと躍起になっている感じ。そのため、ライブの音は同時録音ではなく、別どりにしたらしい。音へのこだわり。
 この映画はトリップできるよ。特に大きなスクリーンで見ると。ざらついた映像とギターの轟音が体に突き刺さってきて、からだ全体を揺さぶられる。