こころの湯

洗澡
Shower
1999年,中国,92分
監督:チャン・ヤン
脚本:リュウ・フェントウ、チャン・ヤン
撮影:チャン・チェン
音楽:イェ・シャオ・ガン
出演:ズウ・シュイ、ブー・ツンシン、ジャン・ウー

 北京郊外で銭湯を営むリュウ老人のところは近所の人がいつも集まっていた。リュウ老は知的障害のある息子アミンと一緒に楽しく商売をしていた。そんなある日、家を出て南で暮らしている長男のターミンが突然帰って来た。ターミンはアミンから届いた葉書を見て父に何かあったのではと思ったのだが、それは取り越し苦労に終わり、数日後に帰ることに決めたのだが…
 「スパイシー・ラブ・スープ」のチャン・ヤンが名優ズウ・シュイを迎えて撮った感動作。従来の中国映画とは一味違った仕上がり。

 この監督は何かある。「スパイシー・ラブ・スープ」を見ているときにも思った「何かあるんだけれどどこか突き抜けない感じ」、それがこの作品にも引き続きあります。銭湯のシーン(ブルー)から砂漠のシーン(オレンジ)に突然展開したときにはビビッと来ましたが、結局この映画で目に付いたのはその青と赤(オレンジ)との対比くらい。他の部分もうまいとは思うもののグットくるまでは行かない感じなのです。「オー・ソレ・ミオ」とか、かけっことか「なるほどね」とか「やっぱりね」と思うところは多々あるもののそれを超えてきたのは一箇所のみでした。
 しかし、中国映画であると言う点から見れば、やはり斬新なものかもしれない。色使い一つにしたってなんとなく中国映画と言うと自然の色彩をよく言えば生かすような使い方で工夫がないのに対して、この映画は明らかに色に対するこだわりが強い。その辺りをしっかり見たい。
 そして、全体的にはしっかりとまとまっていて、感動ものとしては合格点。親子や兄弟と言った肉親の関係性がしっかりと描かれています。
 「スパイシー」のときにも書きましたが、この監督ならもっと先へ先へといけそうな予感がするのです。いつの日か本当に名作を撮ってくれそうな期待を寄せつつ見守ります。

ゴージャス

玻璃樽
Gorgeous
1999年,香港,121分
監督:ヴィンセント・コク
脚本:ヴィンセント・コク、アイヴィ・ホー
撮影:チェン・マン・ポー
音楽:デニー・ウォン
出演:ジャッキー・チェン、スー・チー、トニー・レオン、リッチー・レン

 台湾の島に住む少女プウ、イルカと仲良しの夢見る少女はボーイ・フレンドにプロポーズされる。そのプロポーズに悩む彼女は海辺で手紙の入ったビンを拾う。そこにはアルバートという男の名前で愛のメッセージが書かれていた。プウはそのメッセージを頼りに香港へと向かった。
 ジャッキー・チェン製作のアクション・ラブ・コメディ。スー・チーにトニー・レオンといういまをときめく役者陣を使ったが、かなりB級テイスト。しかし、B級映画としては相当なもの。

 ここまでプロットのつかめない映画も珍しい。ひとつひとつのエピソードの間に全く必然的なつながりがない。アランは一体なにがしたかったのか? というくらいいる理由のわからないキャラクターなのに、どうしてあそこまでアクションシーンを引っ張るのか?(それはジャッキーだから)、結局ラブ・ストーリーなのかこれは? あー、何のことやら。
 という疑問は致し方ないところですが、そんなことはおいておいて、かなり笑える映画であります。まず最初のイルカからしてわけがわからない。あのイルカの余りに不自然な動きは何なのか? そして明らかにアフレコで人間の声にしか聞こえないイルカの鳴き声は何なのか? という些細なことから始まって、どうして警官はいきなり人形なのか?(「裸足のピクニック」を思い出す) 感動を狙った(と思う)シーンの3方向アップつなぎはやっていいのか?
 ああ爆笑。ジャッキーはきっと狙ってはやっていないので、真面目にやった結果がこうなのだろうと考えることもできますが、もしかしたら監督がジャッキーにばれないようにB級爆笑映画に仕立て上げたのかもしれない。そうだとしたらこの監督はすごいかもしれない。水野晴夫と組ませたい。
 ということでこの監督についてちょっと調べたところ、監督は2作目で、前作は「008(ゼロゼロパー)皇帝ミッション」という明らかなB級コメディな題名の映画。見たことはありませんが、面白いのかもしれない。

友だちのうちはどこ?

Khane Doust Kodjast
1987年,イラン,85分
監督:アッバス・キアロスタミ
脚本:アッバス・キアロスタミ
撮影:ファラド・サバ
音楽:アミン・アラ・ハッサン
出演:ババク・アハマッド・プール、アハマッド・アハマッド・プール、ゴダバクシュ・デファイエ

 主人公の少年アフマドが学校から帰り、カバンを開けるとノードがふたつ。その日も遅刻して宿題を忘れ、先生に叱られたばかりの隣の子のノートを間違えて持ってきてしまったのだ。やさしい少年アフマドは彼を探して遠くの村まで走ってゆく。無事にノートは帰すことができるのか?
 少年を描かせたら世界一のキアロスタミ監督作品の中でも最も少年が輝いてる作品。素朴にして重厚、キアロスタミ映画のひとつの到達点であるこの作品は映画史に残る名作。

 すでに古典という感じすらするイラン映画の名作だが、新鮮さを失うことはない。この作品以後についても作品が作られ、三部作のようになっているが、何度もアフマドが駆け上がり駆け下りるジグザグ道から名づけられた「ジグザグ三部作」と呼ばれる。
 このジグザグ道の反復がこの映画の最大のミソで、同じ道を上り下りしているだけなのに、徐々に心細くなってゆく少年の心理が手にとるようにわかって心揺さぶられる。この反復という要素はキアロスタミの映画ではよく用いられる要素で、反復の中に生じる微細な変化がその反復をする人の心理を言葉以上に如実に表現する。この映画でいえば、アフマドの足取りが重かったり軽かったり、うつむいていたり正面をじっとみつめていたり、その変化がとても面白い。

スパイシー・ラブスープ

愛情麻辣湯
Spicey Love Soup
1998年,中国,109分
監督:チャン・ヤン
脚本:チャン・ヤン
撮影:チャン・ジァン
音楽:ジャ・ミンシュ
出演:チャオ・ミアオ、カオ・ユアンユアン、シュイ・ファン

 火鍋と呼ばれる激辛鍋を食べるカップル。二人は結婚を考え、翌日彼女の両親と食事をすることに。彼氏の方はその夜おなかをこわしたが、彼女の両親との食事もまた火鍋だった…
 というプロローグで始まる中国の様々な恋愛模様を描いた群像劇、火鍋のカップルを含めれば5つのエピソードで構成される。すごいところもあれば平凡なところもある。中国の新しい映画。

 まとめてしまうと、突き抜けそうな勢いがあるところもかなりあるけれど、基本的に「くさい」ので、全体としては微妙なところ。おそらく、総括してみれば平凡な映画なのかもしれない。でも、考えてみれば異常なほどのまとまりのなさ。愛に様々なバリエーションがあるというのなら分かるけれど、この映画のそれぞれのエピソードはあまりに共通点がなさ過ぎる。
 最初の話はすでにあまり覚えていませんが、いわゆる中国映画らしいオーソドックスな感じ、2話目も最初はそうかと思いきや、がたがたと崩れていき、人形劇の辺りでは壁を乗り越えて突き抜けた感じがした。しかし、それもつかの間またオーソドックスにもどり、3話目はなんだか説教くさい普通の話。4話目はできそこないのウォン・カーウァイかと思わせておいて、「何じゃその落ちは」と突っ込まざるを得ない終わり方。2話目と4話目に私のハートはわしづかみされましたが、他の部分が全体的に説教くささも含めてくさく、トレンディードラマかよと突っ込みたくなる場面も多い。それでもそこここにセンスを感じさせるシーンや画面がちりばめられているので、見ながら映画に対する評価も激しく上下していくという感じです。
 と、かなり微妙な映画ですが、もう一つ突き抜ければすごい監督なのかもしれない監督の可能性は見えた気がします。

ザ・カップ 夢のアンテナ

Phorpa
1999年,ブータン=オーストラリア,93分
監督:ケンツェ・ノルブ
脚本:ケンツェ・ノルブ
撮影:ポール・ウォーレン
音楽:ダグラス・ミルズ
出演:ジャムヤン・ロドゥ、ネテン・チョックリン、ウゲン・トップゲン

 インド、ヒマラヤ山麓の僧院。チベットから亡命してきた院長はまた新たにチベットから逃れて来る2人の少年を待ちわびていた。そんな僧院の若い修行僧ウゲンはサッカーのワールドカップに夢中。部屋にはサッカーの写真を張り、僧衣の下にはロナウドのシャツを着ていた。そして夜中にこっそりとサッカーを見るために僧院を抜け出す。
 チベット仏教の高僧が脚本・監督をし、出演者も本当の僧たちというかなり異色な映画。ブータン映画はこれが日本初公開作品となった。

 特にすごいところはないけれど、全体的にすっきりしていて悪くない。役者からカメラまですべてが素人っぽいのだけれど、拙いということではなくて素直な感じ。しかし、2回くらい「クローネンバーグか?」と思わせるシュールな映像もあったりして、なかなか。全体としてはヒマラヤらしいすんだ風景と密教僧特有の僧衣や装飾のきらびやかさが対照的で実に鮮やかな映像となっている。
 などという大部分は自然な映像で、密教僧とワールドカップという面白い組合せを存分に生かし、お話としてはとてもよい。コメディというわけではないけれど、主人公のウゲンはなかなかコミカルで、ほのぼのとした笑いを誘う。サッカー雑誌がどこからやってくるのかが謎だったけれど、そういうことはあまり気にしない。
 2002年のワールドカップでも続編が作られたりするんだろうか… それか、日本サッカー協会推薦らしいので、僧達を招待したりして。で、それを映画にしてみたり。多分大森一樹あたりが(特に理由はないけど、なんとなく撮りそうな気がして…)。それもなかなか面白そう。

天使の涙

Fallen Angels
1995年,香港,96分
監督:ウォン・カーウァイ
脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
音楽:フランキー・チャン
出演:レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モク

 本来は「恋する惑星」の第3話として予定されていた作品。殺し屋とエージェント、金髪の女、口の聞けない青年モウ。四人が繰り広げる恋愛話。
 「恋する惑星」と共通点が多く、姉妹編といった感じ。クリストファー・ドイルのカメラは相変わらずさえを見せ、使われている音楽も非常に効果的で印象的。映像と音楽がうまくマッチングしたシーンがいつまでも頭を離れない。
 一作一作成長を続けるカーウァイとドイルのコンビがたどり着いたあるひとつの到達点なのかもしれないと感じさせる作品。

 いつも、カーウァイの映画は書くことがないのですが、今回はもう一度クリストファー・ドイルのカメラに注目してみました。なんといってもドイルのカメラはあまりに自由。人物の動きとシンクロせずにカメラが動いていくのが非常に不思議。この映画で一番印象的なのは、殺し屋の部屋を外から映すフレームだと思いますが、これも外から部屋の中を取るというなかなか大胆なことをやっている。けれど、本当に自由なのは、カメラが登場人物とすれ違ったりすること。
 ですね。
 面白いのは金城武。賞味期限切れのパイナップルの缶詰の食べて口がきけなくなってしまったというのもおかしい。もちろん「恋する惑星」とのからみですね。そして、突然金髪になり、「ロシア人かもしれない」というところ。これは撮影中いきなり金城武が金髪で現れ、それを見てカーウァイがその場で脚本を書き換えて出来たというのは有名な話。
 最後バイクで疾走するときに流れる印象的な歌は、フライング・ピケッツの「オンリー・ユー」です。はやりました。CD買いました…

アタック・ナンバーハーフ

Satree Lex
2000年,タイ,104分
監督:ヨンユット・トンコントーン
脚本:ビスッティチャイ・ブンヤカランジャナ、ジラ・マリゴール、ヨンユット・トンコントーン
撮影:ジラ・マリゴール
音楽:ワイルド・アット・ハート
出演:チャイチャーン・ニムプーンサワット、サハーバーブ・ウィーラカーミン、ゴッゴーン・ベンジャーティグーン

 またもバレーボールチームの選考におちてしまったオカマのモン。実力は十分なのにオカマであるがゆえにはずされてしまう。悔しさを抱えながらモンは親友のジュンとバンコクに行くことにした。しかし出発直前、県選抜チームが選手を募集しているというので行ってみると、そこにはオナベの監督が。見事選考に通ったジュンとモンだったが彼らが入ったことで選手たちは辞めてしまい、ジュンとモンは昔の仲間に頼みに行くことにする。
 1996年、タイで実際にあったオカマのバレーボールチームを映画いたコメディ。スタンスとしては「クール・ランニング」ですね。かなり笑える。問題もちゃんと捕まえている。B級テイストも盛り込まれ、「これは見なきゃ!」といえる作品。

 ちょっと物語の進行がまどろっこしい感がある前半がなければ素晴らしかった。前半の何が悪いのかというと、いまひとつ的が絞りきれていないところ。観客としては彼ら(オカマたち)をどう見ていいのかちょっとわからない。主人公なのだから、そこの肩入れしてみるのが普通なのだけれど、この映画のつくりとしては、彼らは反感をもたれる存在として描かれている。それはおそらくオカマに反感を持つ観衆を想定しての描き方なのだろう。
 だから、最初から彼らに肩入れしてみると、彼らへの反感を取り除いていく過程の部分がまどろっこしい。それを回避するためには登場人物の一人を反感をもつ人間の代表としていれて、その登場人物が彼らにシンパシーを感じていくという過程を描くのが最もらくな方法で、この映画ではチャイがその役回りとして使われているのだと思うけれど、彼は最初からオカマをそれほど毛嫌いしていないので、いまひとつね。
 というところが少々難点ですが、そんな過程を越えて、サトリーレックを応援するところまで行ってしまえば、ただただ笑うだけです。偏見を持つ人のほうを逆に笑い飛ばすという方法も非常に効果的です。そして最後の最後に来て映画の面白さは一気に加速。映画の最後の15分くらいからエンドクレジットまではひと時も目が離せない。謎のB級特撮あり、エピローグも、エンドロールも最高です。

かさぶた

Le Gale
1987年,イラン,86分
監督:アボルファズル・ジャリリ
脚本:アボルファズル・ジャリリ
撮影:アタオラフ・ハヤティ
出演:メヒディ・アサディ、アスガル・ゴルモハマッディ、ホセイン・マルミ

 新聞配達の少年ハメッドは反政府的なチラシを所持していたとして裁判を待つ間少年院に送られる。そこには室長と呼ばれる威張りくさった少年をはじめ、いろいろな少年が収監されていた。
 少年院という閉じられた空間、虐げられた状況の中での少年たちの関係を描いた作品。物語というほどの物語はなく、映画は淡々と進んでいくが、映像は最初のシーンから素晴らしい。

 物語としては、奥歯に物の挟まったような感じ。それは監督の意図なのか、それとも規制の中での苦心の末なのかはわからないが、核心に行こうとすると話がそれていってしまう気がする。だからどうしても展開が単調になるし、先の展開を求めることで映画に入り込んでいくということも出来にくくなる。
 なので、この映画を見るなら映像に注目しよう。何せ、最初の街(テヘランかな?)のうえからの画。画面の上下にまっすぐ道が走っていて、その周囲はごちゃごちゃと建物が立てこんでいる。その画がそもそも美しいうえ、その画面のちょうど真中に妙に浮いた感じで高速道路らしきものが映っている。そして次のカットは橋らしきものを下から見た画面。そしてその橋からビラのようなものがどさっと降ってくる。これだけでかなりいい。
 その後も映像は面白く、ヨーロッパやアメリカの映画とは明らかに違う映像でしかも美しかったりする。一列に座った少年たちが必死に頭をかきむしるのを左から右にずーーーっとパンして映してみたり。
 あとは、この映画は非常に反復が多い。シャベルで土をすくうところとか、プールに飛び込むところとか、それはそれで映像としてなかなか面白くていいのだが、一番気になるのは少年たちの嬌声。最初は少年たちがまだ子どもであるということを意識させてくれていいかなとも思ったが、本当に繰り返し繰り返しでてくると、だんだん耳についてくる。このあたりは狙いなのかどうなのか。狙いだとしたらそれは苛立ちの表現なのか。苛立ちならば、それは映画に対する規制の中で思うように表現出来ないことに対する苛立ちなのか。等々等々などと勝手な推理が進んでいきます。

美少年の恋

Bishonen…
1998年,香港,100分
監督:ヨン・ファン
脚本:ヨン・ファン
撮影:ヘンリー・チャン
音楽:クリス・バビダ
出演:スティーヴン・フォンダ、ニエル・ウー、ジェイソン・ツァン、テレンス・イン、スー・チー

 香港の街で目をひく美少年ジェットは実は男娼。彼はある日、有名議員のJPを引っ掛けたあと、街中で女の子と歩いていた美少年に一目惚れしてしまう。そして偶然した2人は急速に親しくなっていくが…
 二人の関係に、ジェットの同居人で同業者のアチン、人気歌手のKSが絡み合い、複雑な恋愛模様を繰り広げる、いわゆる耽美系のゲイ・ムーヴィー。

 物語としては悪くない。美少年たちは本当に美少年で、『モーリス』や『ビューティフル・ランドレッド』よりも美しいといっていいくらいだ。
 しかし、純粋に映画的に見るといまひとつかな。それも音楽とナレーションに難ありというところ。ラブシーンで流れる妙に荘厳な音楽は最初は狙いかと思ったほどわざとらしく聞こえる。それに、ナレーションは余計。いったい誰なのかわからないし、いっていることも、そんなこと見てればわかるというようなことしかいわない。ナレーションなし、音楽なしなら結構好みの映画だったのにな。
 まあ、でもこれは好みの問題という気もします。映像自体は美少年たちに限らず非常に美しく、特に色使いがすごくいい。サムの家とかすごくヴィヴィッドな色をうまく使って美しい構成です。だから音楽とナレーションが…