冷たい血

1997年,日本,109分
監督:青山真治
脚本:青山真治
撮影:石井勲
音楽:山田勲生
出演:石橋凌、鈴木一真、遠山景織子、永島暎子、諏訪太郎

 「Helpless」や「Shady Glove」の青山真治監督の作品。石橋凌演じる刑事が新興宗教幹部を撃ち殺した犯人(柳ユーレイ)に肩を打たれるところから物語が始まる。打たれて意識を失っているあいだに紛失してしまった拳銃を手に入れた男(鈴木真一)とその恋人(遠山景織子)とのあいだに奇妙な関係が成立してゆく。
 この作品は、単なるバイオレンスというよりは、サイコサスペンス的な要素を取り入れ、精神的な要素を物語を展開していく上での大きなファクターとしている。映像は美しく、造りもかなりこっているが、私の好みにはあまりあわなかった。

 オウム事件の影響を受け、それを題材に現代を切ろうとしていることはわかるが、どうも技巧に走りすぎのような気がする。さまざまな音を使って聴衆の心理を操作しようとする意図はわかるが、あまりそこにリアルさが感じられない。登場人物たちも難解そうな台詞をはくが、単なる言葉遊びに過ぎず、哲学が感じられない。台詞だけが上滑りしている感じがしてしまう。
 ただ、石橋凌はいい演技を見せてくれる。遠山景織子が物語から少し浮いてしまったのが残念。
 映像はきれいで、物語の展開にもスリルがあり、見ていて飽きることはなかったが、それぞれのエピソードのあいだの繋がりがよく見えてこなかった。

エグザイル・イン・サラエヴォ

2000/3/11
Exile in Sarajevo
1997年,オーストラリア,91分
監督:タヒア・カンビス、アルマ・シャバーズ
撮影:ロマン・バスカ、タヒア・カンビス、アルマ・シャバーズ
出演:サラエヴォの住人たち

 オーストラリアに住むカンビア監督が、戦火の母の故郷サラエヴォへ、亡命者(エグザイル:Exile)としてビデオカメラを持って入る。そこに待ち受けていたのはCNNやBBCが伝えるサラエヴォとは異質なものであった。彼はそこでさまざまな人々に出会い、この戦争の意味をこの戦争に巻き込まれた人々の気持ちを徐々に理解してゆく。そして母の姿も。
 この映画は戦争に対するプロテストとしてみることもできるし、戦争という危機的な状況の中で力強く生きる人々の生活を描いたドラマとしてみることもできるし、家族を主題にした物語としてみることもできるし、恋愛ドラマとしてみることもできる。
 とにかく、傑作。
 決して押し付けがましくないドキュメンタリー。

 単に、戦争の悲惨さや虐殺の残忍さを訴えるのではなく、一方的な視点にとらわれることの恐ろしさを抉り出そうとする。この映画は被害者の一方的な視点にとどまらないテーマ性を持ち、フィクションにも劣らないドラマ性を持つ。
 われわれはNATOの空爆についてニュースで知り、それについて賛否両論投げかけたけれど、実際、NATOというものがボスニアにおいてどのような存在であったのかということは、この映画を見るまでわからなかった。さも、正義の味方であるかのような顔をして世界に鎮座する国連が、決して常に正義の味方ではありえないことも思い知らされた。
 そして、この映画がさらに素晴らしいのは、そのような戦争に押しつぶされずに生きつづける人々を描き出していること。タヒアとアルマ画徐々に惹かれあっていく姿も、爆弾の餌食になってしまう少女ニルバナの姿も、精神的傷を負いながら絵日記を書き綴る少女アミラの姿も、等しく美しい。
  こんな映画に出会えてよかった。この映画はドキュメンタリーという姿をとり、実際にドキュメンタリー・フィルムではあるが、その内容はフィクションよりもドラマティックである。ドキュメンタリーの本質がそのようなものだとは思わないが、フィクションと同じドラマを孕むドキュメンタリーはやはりフィクションより感動的であるということを認識させる。

メタル&メランコリー

2000/3/11
Metaal en melancholie
1993年,オランダ,80分
監督:エディ・ホニグマン
脚本:ピーター・デルピー、エディ・ホニグマン
撮影:ステフ・ティジンク
出演:ペルーのタクシー運転手たち

 ペルーの首都リマで、タクシー運転手をする人々を取材したドキュメンタリー。ドキュメンタリーというよりは、エピゾードの集成。彼らは本職の運転手ではなく、俳優だったり、教師だったりする。経済的理由によって、副業として運転手をせざるを得ないのだ。
 日本人から見れば彼らタクシードライバーは皆、ひどい生活をしているのだけれど、そこに悲惨さはなく、陽気ささえ感じられる。私はそれをラテン気質とは言いたくない。ラテンアメリカという地域を「ラテン」という言葉でくくってしまうことは簡単だけれど、適切ではないと思う。それをこのドキュメンタリーは語ってくれる。
 決して安っぽいヒューマニズムに陥ることもなく、笑いをちりばめ、タクシードライバーたちの生活を描く描き方は、「これが本当のペルーだ!」と感じさせてくれる力があり、見てて飽きることがなかった。