ウォンテッド
笑ってしまうほどに過剰なアクション。“ひどい”映画だが面白い。
Wanted
2008年,アメリカ,110分
監督:ティムール・ベクマンベトフ
原作:マーク・ミラー、J・G・ジョーンズ
脚本:マイケル・ブラント、デレク・ハース、クリス・モーガン
撮影:ミッチェル・アムンドセン
音楽:ダニー・エルフマン
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・マカヴォイ、モーガン・フリーマン、テレンス・スタンプ、トーマス・クレッチマン
1000年続くという暗殺集団“フラタニティ”、その内紛で幹部の一人が殺された。一方、ウェスリーはパニック障害を抱えるさえないサラリーマン、ある日ドラックストアで殺し屋に命を狙われ、美女に助けられるその美女フォックスはウェスリーの父親が腕利きの殺し屋だったと告げる…
『ナイト・ウォッチ』のティムール・ベクマンベトフがハリウッドに進出して撮った痛快アクション、笑ってしまうほどに過激なアクションがすごい。
この映画ははっきり言ってひどい。いろいろな意味でひどい。
まずはなんと言ってもアクション。最初のアクションシーンからして、カーチェイスで車が横向きに回転しながら障害物を飛び越えたり(自分で書きながら意味がわからないが)という「んなアホな」というシーンが次々と飛び出す。こういうあまりにありえないものを見たときの人間の反応というのは“笑ったしまう”というものだ。このシーンを見た多くの人がつい笑ってしまっただろう。
そんな笑ってしまうアクションシーンというのはアクション映画をシリアスに考えるとあまりよくない。まったくリアリティを欠いているということだし、リアリティを著しく欠くシーンがあるということはその作品自体がリアリティを失ってしまうからだ。
しかし、単純に「笑ったしまう」という現象だけを取り上げると決してそれは不愉快なものではない。なんと言っても笑ってしまうのだから。“笑いヨガ”なんて健康法もあるくらいに笑いというものは気持ちのいいものだ。
そして『マトリックス』以後の一部のアクション映画は過剰なアクションによって“笑い”を提供してきた。それはもはやコメディでもアクションでもないスペクタクルであり、映画の新ジャンルとも言っていいくらいに多くの作品を生み出してきた。
そしてこの作品はそんな新ジャンルの極みとも言うべき作品の一つだ。映画をシリアスに捕らえる人にはまったく持って理解不可能、不愉快ですらあるだろう。しかしこのジャンルにはまってしまった人には最高の作品だ。
不愉快という点から見ると、この映画のもう一つのひどさがある。この作品は“フラタニティ”という組織内に焦点を絞ればプロットもよく練れているし、辻褄も合うし、楽しめる。しかしこの組織と外部とのかかわりを考えるとまったくもってひどいものだ。1000人を救うためにひとりを殺すなどと言っておきながら、人が死に過ぎる。
死ぬのが悪人であるとか、エイリアンであるなどしてその死が意味を持たないようにしてあれば人がたくさん死んでもスペクタクルの一部として消化でき、ハリウッド映画はよくそんな手法を使うのだが、この映画はそんな配慮をすることもなく善意で無実の人たちがあっさり死んでしまう。これはちょっと嫌悪感を覚える人も多いかもしれない。
人は見ているものがいくら空想の産物だと知ってはいてもどこかでそこに自分を投影し、現実を投影してしまう。そうなると、この作品の“ひどさ”は耐え難い。でも人間はそれをおいておいて空想の世界に浸ることもやろうと思えば出来る。「死にすぎだよ」と思ってもそれを空想と片付けて楽しむことができれば、そのひどさも忘れられるというものだ。
ひどいといえば、DAIGOの吹き替えも相当ひどいらしい。どれだけひどいか検証したい人以外は字幕でどうぞ。