二人の銀座

1967年,日本,84分
監督:鍛冶昇
脚本:才賀明
撮影:山崎善弘
音楽:林一
出演:和泉雅子、山内賢、和田浩治、小林哲子、伊藤るり子、尾藤イサオ

 日比谷公園の電話ボックスに置き忘れてあった楽譜の曲をライブハウスで演奏してしまった学生バンド。その曲が評判を得つつある頃、その曲の作曲者が行方不明であることを知る。
 ベンチャーズの曲に永六輔が詩をつけた「二人の銀座」をモチーフに作られた映画。ブルー・コメッツなど当時人気を博していたバンドが出てきて、エレキを演奏するのが見もの。

 映画としてはなんてことはない。シナリオもひねりもないし、映像も至って普通。役者の演技もうまくない。大学生にしてはふけすぎてる。などなど。
 しかし、音楽はなんとなくいい。決して懐かしいはずはないのだけれど(何せ生まれてませんから)なんとなく懐かしい。耳に残って離れない。ちょっと聞いて、「ベンチャーズ」っぽいなと思ったら、本当にそうだった。何でわかるんだ? いったい俺はいくつなんだ?
 途中ちょっと飽きたけど、結構面白かったですよ。昔の銀座の風景というのもなかなか興味深い。少し画面が暗かったのでわかりにくかったのが残念でしたが、「銀座だな」ということはわかる。

TAXi2

TAXI2
2000年,フランス,89分
監督:ジェラール・クラヴジック
脚本:リュック・ベッソン
撮影:ジェラール・ステラン
音楽:アル・ケミア
出演:サミー・ナセリ、フレデリック・ディーファンタル、マリオン・コティヤー、エマ・シェーベルイ、ベルナール・ファルシー

 マルセイユの公道でのレース中、トップの車をあおる純白のプジョー406が現れた。運転手はもちろん暴走タクシードライバーのダニエル。産気づいた妊婦を乗せ病院へと急いでいた。無事子供が生まれ、ダニエルは急ぎ恋人リリーのもとへ。
 一方、警察ではマフィア対策の視察にくる日本の防衛庁長官の警護の準備。署長が「コンニショワ~」と怪しい発音で日本語を教える。
 何はともあれ、今回は日本のヤクザが相手。黒塗りの3台の三菱車との対決。日本人にはつぼに入ること請け合いの突込みどころ多数。映画館で見ると、突っ込めなくてストレスがたまります。 

 どうしようもなく笑える。前作を見ていれば、ストーリーは考えなくてもわかる。しかしあまりにばかばかしいギャグセンスがたまらない。とくに日本人には、突っ込まずに入られないボケどころ多数。
・テレビ電話で話すボスの後ろに映っている和服の女の子はなんだ!
・なんで千葉ナンバーなんだ!
・日本語下手すぎるよ!
・あんなばればれなSPいねーよ!
・飛びすぎだよ長官!
などなど、まだまだ突っ込み足りませんが、この辺で勘弁しといたろ。
 とにかく、映画うんぬんよりばかばかしさに笑ってそれでいい。リュック・ベッソンが本当に撮りたい映画ってのはこれのような気がする。でも、立場的にこんな映画は撮れない。巨匠もつらいね。

スネーク・アイズ

Snake Eyes
1998年,アメリカ,99分
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:デヴィッド・コープ
撮影:スティーヴン・H・ブラム
音楽:坂本龍一
出演:ニコラス・ケイジ、ゲイリー・シニーズ、ジョン・ハード、カーラ・グギーノ、ケヴィン・ダン

 アトランティック・シティのスタジアムで行われたボクシングのヘビー級タイトルマッチ、賭博にいそしむ汚職警官のリックもその場にいた。そして、リックが賭けたチャンピオンが倒れた瞬間、リックのすぐ側にいた国防長官が銃弾に倒れた。リックは国防長官の警護主任をしていた親友のダン中佐とともに1万4千人の観衆の中から事件に関係する容疑者たちを探しだそうとするが…
 巨匠デ・パルマが工夫を凝らして作り上げたサスペンス。浮かび上がる関係者たちの謎が解けていく過程は推理小説のようでスリリング。 

 全体的に言えば、前半の謎解きの部分はかなり面白い。しかし、そのあとの展開はちょっとね。どこにでもあるアクションものにしかなっていない気がしてしまう。
 デ・パルマはかなり工夫を凝らしているのだけれど、それが映画に貢献しているかと言うと少々疑問。最初10分くらいを1ショットで見せるところも、「ほー」と関心はするけれど、果たして必要なのかと言われると、別になくてもいいかなという気もしてくる。事件の現場をさまざまな人の主観ショットから撮るという発想もかなり面白いけれど、ちょっと親切すぎるかなという気がする。特に、ダン中佐の主観シーンはもう少し工夫のしようがあったんじゃないかな?
<ネタばれ注意>
だって、あれは嘘の画面なわけでしょ。ダン中佐が作り上げた。それを他の本当に見た画面とまったく同じ撮り方で撮ってしまうのはどうかな? 嘘である事を隠すためにはそれでいいのだけれど、じゃあ、あの画面はどこにあったの? という疑問が沸く。つまり、それは現実には起こっていないものだから、ダン中佐の頭の中で作り上げられたもののわけで、それなのに現実とまったく見まごうことない鮮やかな映像でいいの? 歪みとか、ためらいとか、そういったものが画面に反映されるのが本当なんじゃないの? もちろん、そういう歪みを出してしまったら謎解きのほうの魅力は減退してしまうのだけれど、その辺は何とか工夫できたんじゃないの?
 と、難癖をつけてみたくなりました。
 他に、感想を羅列してみると、
・ゲイリー・シニーズはかっこいい。
・ニコラス・ケイジはいやらしい。
・エンドクレジットの最後の謎もすべてが丸く収まってしまったあとではどうで もいい。(あれは、赤毛の女がつけてた指輪だよね、多分) 

イヤー・オブ・ザ・ホース

Year of the Horse
1997年,アメリカ,107分
監督:ジム・ジャームッシュ
撮影:ジム・ジャームッシュ、L・A・ジョンソン、スティーヴ・オヌスカ、アーサー・ロサト
音楽:ニール・ヤング、クレイジー・ホース
出演:ニール・ヤング、フランク・パンチョ・サンペドロ、ビリー・タルボット、ラルフ・モリー、ジム・ジャームッシュ

 20年以上も活動を続けているバンド、ニール・ヤング・アンド・クレイジー・ホースのドイツでのライブ映像とインタビューでクレイジー・ホースの活動を追うドキュメンタリー。
 自身クレイジー・ホースの大ファンであるジム・ジャームッシュが独特の感性で作ったミュージックビデオといえばいいだろうか? ライブ映像は一曲ずつフルコーラスやるので、ロック好きではない人には少々つらいかもしれない。しかし、ロック好き! という人にはたまらない作品。クレイジー・ホースの痺れるような演奏がとことん聞ける。あるいは、ロックというものに興味がなかった人(最近は、そんな人もあまりいないか)もこの映画を見れば、その力に圧倒されるかもしれない。
 ジム・ジャームッシュらしさもそこここに見られ、特に映像(ライブ以外の部分)に注目すれば、ジャームッシュの映画と実感できる。 

 まず、最初に誰もいないインタビュールーム(といってもこ汚い部屋)が映った時点で、「あ、ジャームッシュ」と思わせるほどジャームッシュの映像は独特だ。この部屋のような空間の多いものの配置がいかにもジャームッシュらしい。今回は、編集が「デッド・マン」などで組んだジェイ・ラビノウィッツであるというのも、ジャームッシュらしさが感じられる一因であるのだろう。
 それはさておき、ニール・ヤングとクレイジー・ホースがとにかくかっこいい。このギターおやじたちは何者だ? と思った方も多いかと思いますので、私の浅い知識で解説。ニール・ヤングといえば、いわずと知れた伝説のギタリスト。恐らく60年代から、バッファロー・スプリングフィールドに参加、その後CSNY(クロスビー・ステルス・ナッシュ・アンド・ヤング)に少し参加。あとはソロで活動したり、いろいろな人の横でギターを弾いたりしている人。ジャームッシュとの関係で言えば、「デッド・マン」で音楽を担当。クレイジー・ホースについては私も映画以上の知識はないんですが、ニール・ヤング単体の音と比較した場合、クレイジー・ホースのほうが明らかに轟音ですね。とにかく、一つのバンドに長くいることのないニール・ヤングが20年以上も活動しているということを考えると、これこそがニール・ヤングのバンドなのでしょう。
 とにかく、ジャームッシュがファンだということは伝わる。彼等の魅力を自分なりに伝えようと躍起になっている感じ。そのため、ライブの音は同時録音ではなく、別どりにしたらしい。音へのこだわり。
 この映画はトリップできるよ。特に大きなスクリーンで見ると。ざらついた映像とギターの轟音が体に突き刺さってきて、からだ全体を揺さぶられる。 

グレアム・ヤング毒殺日記

The Young Poisoner’s Handbook 
1994年,イギリス,99分
監督:ベンジャミン・ロス
脚本:ベンジャミン・ロス
撮影:ヒューバート・タクザノブスキー
音楽:ロバート・レーン、フランク・ストローベル
出演:ヒュー・オコナー、アントニー・シェール、ルース・シーン、ロジャー・ロイド・バック

 1960年代に家族をはじめとして、多くの人を毒殺した毒殺魔グレアム・ヤングの実話に基づいた物語。
 グレアムは幼いことから科学に興味を持ち、14歳のときにニュートンがダイヤモンドを合成したといわれる硫化アンチモンという薬品に出会う。しかしこれは強力な毒にもなる薬品だった。この薬品の魅力にとりつかれた彼は、実験を繰り返しながらより強力でばれにくい毒薬を探して行く。
 「毒殺魔」という地味で映画になりにくそうな題材を扱いながら、かなり観客をひき込む魔力を持った映画。物語は淡々と進んでいくのだけれど、観客はどうにもそわそわしてしまう。音楽(選曲)もかなりよい。 

 話としてはかなりえげつなく、どろどろした話のはずなのに、主人公の淡々としたところと、なぜかほのぼのとした音楽が不思議な魅力。特に音楽のアンバランスさはかなりいい。
 なかなか言葉で表現しにくい魅力ですねこの映画は。一言でいってしまえば、すべてひっくるめた全体の雰囲気が好き。映像も時々突っ張ったところがありながら、全体としてはオーソドックス。しかし、神経を逆なでするような効果がかなり入れ込んである。役者もかなり素人くさい人たちなのに、なんとも言えない味がある。いかにも毒殺されそうなキャラクター(どんなじゃ!)というか、絵にかいたようなありふれた人(つまり、実際にはあまりいない)というか、とにかく映画のそわそわ感とはまったく正反対の人たちなわけです。
 と、言うわけであまりうまく書けなかったものの、個人的にはかなりつぼに入った映画だったということは伝わったでしょうか? ちょっと「π」にも通じるような感じですね。映画の「味」が似ています。 

恋は舞い降りた

1997年,日本,114分
監督:長谷川康夫
原案:遊川和彦
脚本:飯田健三郎、喜多川康彦
撮影:矢田行男
音楽:橋本文雄
出演:唐沢寿明、江角マキ子、今村恵子、沢村一樹、玉置浩二、渡辺えり子

 天使のミスであやまって死んでしまったやり手のホスト神崎啓一郎。「生き返らせろ」と突っかかる啓一郎に天使が妥協案を示した。それは、「地上で最初に言葉を交わした女性を幸せにできたら生き返らせる」というもので、そのために4つの願いをかなえられるというのだ。というわけで、啓一郎は偶然言葉を交わしたバツイチの女性マチ子を幸せにしようと奮闘するのだが…
 脚本家として知られる長谷川康夫が豪華キャストで監督したまっとうなラブストーリー。 

 別にストーリーが悪いとか、役者が下手とか、そういうことはまったくないんだけれど、なんとなく全体に古臭い。80年代のトレンディードラマの香りがする。カメラの使い方も映画というよりはドラマ。特に、唐沢寿明が雪だるまの中に入って二人が会話するシーンでの二人の主人公のアップの切り返しが延々と続くのはかなりきつい。しかも、唐沢寿明のほうは雪だるまの中からの視点で、江角マキ子のほうは雪だるまの外からの視点。いったい何の意味があるんだ! 大スクリーンであんなわけのわからんアップ続けられたらぶちきれるぞ! というくらいのシーンでした。
 それ以外でもかなりつたないところがたくさん。ひとつあげれば、最後にヘリで上から東京の街を撮るところ、ヘリに乗っているからだろうけれど街の画は相当ぶれているのに、そこに降りしきっているはずの雪はまったくぶれない。かー、あとづけばればれだぞ!
 あまりのちゃちさに怒り心頭。まだ「シベ超」のほうがよくできてる。
 江角マキ子はきれい。なんか若く見えるけど、それほど前でもないんですね。 

ラジオ・フライヤー

Radio Flyer
1992年,アメリカ,114分
監督:リチャード・ドナー
脚本:デビッド・ミッキー・エヴァンス
撮影:ラズロ・コヴァックス
音楽:ハンス・ジマー
出演:ロレイン・ブロッコ、ジョン・ハード、アダム・ボールドウィン、イライジャ・ウッド、トム・ハンクス

 マイクとボビーの幼い兄弟はは離婚した母とともに着の身着のままでボロ車でアメリカを横断し叔母の家に身を寄せる。母はそこで出会ったキングと結婚し、カリフォルニアに移り住むのだが、実はボビーがキングに暴力を振るわれていることをある日マイクは知る。
 ラジオ・フライヤーは遊び道具などを載せてひっぱる子供用の荷車のこと。叔母さんの家にいるとき、ボビーが母親からプレゼントされ、それ以来兄弟はそれを常に持ちあるくが、これが物語の重要な要素に。
 物語は、マイクが大人になって回想するという形で語られるが、この語りをトム・ハンクスが担当。ノン・クレジットではあるが、聞けばすぐ気づく。本人も少し登場。 

 日本で言う文部省推薦映画という感じだが、かなり子供の視点というものにこだわった作品になっているところがいい。まず、恐怖の対象となっているキングはほとんど正視されることがない。影になっていたり、後姿だったり、手のアップだったり。虐待シーンも映されることはなく(子供同士のけんかは映す)、いかにもスピルバーグ風ファミリー映画という風情だが、監督がリチャード・ドナーなら仕方がない。
 リチャード・ドナーは「リーサル・ウェポン」シリーズは面白いけれど、そのほかはいまいちぱっとしないような気がする。「マーベリック」とか。その中ではこの作品はなかなかの佳作だと思う。そういえば、子供の頃「グーニーズ」を見てすごく面白かった気がする。今見たらどうなんだろう? 作り物くささが鼻についてしまったりするんだろうか? それとも子供の頃と同じく楽しく見れるのだろうか? 今度見てみよう。
 やっぱりこの映画、意外と面白かったと思います。何だか、すべてが当たり前の展開なんだけれど、なんだか心に引っかかるという感じ。地味目のキャスティングもかなりいい。あとは、犬の演技がすごくいい。

翼のない天使

Wide Awake
1998年,アメリカ,87分
監督:M・ナイト・シャマラン
脚本:M・ナイト・シャマラン
撮影:アダム・ホレンダー
音楽:エドマンド・チョイ
出演:ジョセフ・クロス、ロージー・オドネル、デニス・リアリー、ティモシー・レイフシナイダー、ダナ・デラニー

 カトリックの学校に通う少年ジョシュアにひとつの死が訪れる。大好きな「じじ」が死んでしまった。ジョシュアはショックを受け、「じじ」が大丈夫かどうか聞くために神様と話したいと思うようになる。その神様探しの中で成長して行く少年の姿を描いた感動作。
 「シックス・センス」の監督M・ナイト・シャラマンのメジャー・デビュー作。「スチュアート・リトル」の脚本も書いているこの監督は、子供向けというか、児童作品が専門なのだろうか? この映画も、日本で言うところの文部省指定作品という感じ。ファミリー向けにはなかなかいい作品だと思います。 

 少年が、「死」にショックを受けて「神様」を探し始める。そのことで彼はさまざまなことに気づき始め、人間的に成長して行く。
 あらすじを書くと、まさにに教科書に出てきそうなお話。映画を見てもその通り。生ぬるいというか、気恥ずかしいというか、かなりよくできてはいるんだけれど、どうもなじめない。
 特に驚くべきところもなく、プロットに目を見張るところもない。主人公のジョシュア・ビールを演じるジョセフ・クロスはなかなかいい演技。可もなく不可もなく、無難な映画という感想でした。
 しかし、ラストは…。「なるほど」と思えないこともないんだけれど、そんな結末にするんだったら、もっと伏線をいっぱい張って、「オー!」と納得できるようなシナリオにしないと厳しいのではないでしょうか。

スターシップ・トゥルーパーズ

Starship Troopers
1997年,アメリカ,128分
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
原作:ロバート・A・ハインライン
脚本:エド・ニューマイヤー
撮影:ヨスト・ヴァカーノ
音楽:ベイジル・ポールドゥリス
出演:キャスパー・ヴァン・ディーン、ディナ・メイヤー、デニース・リチャーズ、ジェイク・ビューシイ、ニール・パトリック・ハリス

 地球は銀河系の反対側クレンダス星に住む昆虫が進化した宇宙人バグズの攻撃を受けていた。そんな頃、ブエノスアイレスで高校生活を送っていたジョニー・リコと恋人のカルメン、友人で超能力を持つポールの三人はともに軍隊に入った。3人がそれぞれ軍隊で別の道を歩み始めた頃、地球はバグズとの全面戦争に突入した。
 ロバート・A・ハーラインの1959年の小説の映画化。とにかく単純明快。人間と虫の殺し合い、涙あり感動あり笑いあり、大スペクタクル・スペース・ドラマ。
 とても痛快、素晴らしい作品だと思うが、見ようによってはひどい映画とも言える。特に、残虐シーンが多いので生理的に受け付けないという人は要注意。 

 とにかく、なにもかもがわかりやすい。何せ、相手が昆虫だからね。殺すのに躊躇がいらない(昆虫好きには怒られるか)。そして、権威主義も恋愛も、すべてがもう教科書どおりに描かれている。わかっちゃいるけど熱くなってしまうんだよね。そして、エイリアン的なスリルあり、友情あり、なのですよ。
 さらに面白いのは、人がちぎられたり、虐殺された後の光景だったりといった残虐なはずのシーンがすべて作りものくさいところ。リアルであるような気もするんだけれど、やっぱり作りものなんですね。これはわざとでしょうねやはり。あんなに人形じみた死人を置く必要はないですから。そして、連邦軍のコマーシャル。あのわざとらしい作り方がなんともいえない。これが、ヴァーホーヴェンの反戦の訴えだとは言わないけれど、さまざまな物事を皮肉ったヴァーホーヴェンなりのメッセージであることは確かでしょう。
 ヴァーホーヴェンという監督は何だか、こういう妙な才能がありますね。ヴァーホーヴェンといえば、「トータル・リコール」に「ロボ・コップ」ただの娯楽SFのようでいて、裏になにかにおう。この映画もまたそんな作品でした。 

ラウンダーズ

Rounders
1998年,アメリカ,121分
監督:ジョン・ダール
脚本:デヴィッド・レヴィエン、ブライアン・コッペルマン
撮影:ジャン=イヴ・エスコフィエ
音楽:クリストファー・ヤング
出演:マット・デイモン、エドワード・ノートン、ジョン・タトゥーロ、ファムケ・ヤンセン、ジョン・マルコヴィッチ

 ポーカーで学費を稼ぐロースクールの学生マイク(マット・デイモン)は有り金すべての3万ドルを用意して、勝負に臨むがあえなくすってしまう。マイクはポーカーを止めることを決意し、配送のアルバイトに精を出す。しかし、そんな時、昔のギャンブル仲間ワーム(エドワード・ノートン)が刑務所から出所してくる。
 マット・デイモンはギャンブルをしていてもまじめ青年。ストーリ自体もなかなか面白いが、脇役に個性的な役者がそろっているのが楽しい。恋愛はほんの飾り物にすぎない「男」の映画。

 なんと言っても、エドワード・ノートン演じるワームのバカっぷりがすごい。そしてマイクのお人よしっぷりが。いくらなんでもここまでバカなやつもいないだろというくらいバカを繰り返すワームに、なぜかいつまでもやさしく振舞うマイク。その関係性が映画を面白くしているのだろう。そのあたりが作り手は巧妙だ。マイクのモノローグを織り交ぜることで、観客をマイクの側に立たせる(必ずしもマイク自身に自己投影させるわけではない)。それで観客はワームのことが腹立たしくて仕方がなくなるわけだ。そしてさらに、マイクがワームをかばう気持ちもわかるというようにさせる。それで、KGBに立ち向かう準備は整ったというわけだ。余計な恋愛話もなくなったし、あとは男と男の一騎打ち。これはつまり、現代版の凝った作りの西部劇なのですね。クライマックスは一対一のガチンコ勝負。ずるはなし、脅しもなし。